生涯を通した家計を俯瞰する

―― 「典型デュアラー」は、内藤さんから見てどんな特徴がある夫婦でしょうか?

内藤 統計から考えると、非常に少ない層の人ですよね。夫婦ともにフルタイム勤務で、いい教育を受けられる家庭に育ち、自分の子どもにも、親からしてもらったような教育を与えようと思っている。「ほどほどは、もの足りない」くらいの意識かもしれません。

 30代で第一子を出産しているので、それまでの人生でいいものを見ているし、知っている、しかし子育てをする年齢的なスタートラインが遅くなっています。マネープランでは、ここが一番の留意点になります。

―― 消費の楽しさを知っていて、しかもお金がないわけではない。だから、子どもにもいい教育を、と思ってしまう。読者アンケートでも、子ども1人あたりの習い事に、月3万円支出している家庭もあります。

内藤 今はかけられても、支出は他とのバランスで考えなければなりません。大切なのは、俯瞰(ふかん)していくことです。「典型デュアラー」は計算や表作成などは苦にならない人たちだと思いますので、簡単なライフプラン表を作って可視化していくのがいいと思います。

 自分が45歳、50歳になったとき子どもは何歳か、収入はどうなっているか? 大学進学時は最も教育費がかかる時期なのですが、会社員の収入のピークは50代になることも多いですから、教育費と収入のピークは、どのくらいずれているか? 「今の使い方ではまずいかな?」という気づきを、夫婦で共有していきましょう。

安易に「正社員」を手放さない

―― ライフプラン表はエクセルでも作れますし、インターネット上で無料ツールとして配布されているものもありますね。ところで今回のライフプラン表で気になるのは、2人の子どもは小学校から高校まで公立校に通わせ、妻も定年までフルタイムで働く設定だということです。私立に通わせる、妻が仕事をセーブすると、家計が赤字化する年齢が、もっと早まってしまうということですよね。

内藤 はい。例えば進学塾に通わせることは「住宅ローンがもう1本」と揶揄されることもありますが、手を動かして数字を見ていくと、そうしたリアルさがより実感できると思います。「仮定」の部分が多くはなりますが、ちょっとした改善で、破たんを食い止めることができることも分かります。

 詳しくは第2回でお話ししますが、正社員・フルタイムで働いている女性が子育てをしていると、「子どものために」仕事をセーブするべきか、きっぱり辞めてしまうか、といった選択を迫られることがあります。そのときも決して、目先のことだけでなく、ライフプランを念頭に置いて考えてください。

 子どもの教育のピークは、せいぜい10年です。「私がついていないと、この子の人生は…」と思い詰めてしまう人がいますが、子どもは100歳以上生きるかもしれない世代です。100年の中の、たかだか10年で人生が決まるでしょうか? 仕事を続けながら、子どもによりそう方法は本当にないのでしょうか?

 夫婦がともに正社員であるということは、会社の健康保険や、将来受給できる厚生年金など、見えない保障に守られているということです。継続的に収入があることのありがたさと、一生涯受給できる公的年金の金額が増えるということを考えれば、「必要経費」という考え方で、家事を外注する判断もあると思いますよ。

―― 収入だけで考えるべきではないんですね。読者にも迷いがあるところだと思います。100年ライフの「教育支出」、それにともなう「妻の働き方」の考え方は第2回でじっくりと深めます。