「大変なら辞めてもいいんだよ」というNGワード

林田香織さん
林田香織さん

林田 確かに一度家事、育児を一方が全面的に担う専業体制が構築されてしまった家庭が、夫婦でシェアする体制にシフトするのはすごくハードルが高いですよね。分業してしまったほうがお互い干渉せず、やりやすい場合もありますね。

氏家 世代や子どもを産んだ時期にもよりますね。夫は私より8つ年上なので、夫の世代はさらに夫婦で家事、育児をシェアするという考え方は難しかったと思います。夫婦も様々なタイプがありますし、場合によっては「役割を区分する」のもいいと思います。

林田 夫婦によって考え方も様々なので、「こうすれば必ず上手くいく!」というような両立術はないと思います。その中の一つの提案として、本連載ではそれぞれの家庭が持っているリソース、つまり家電やテクノロジー、民間サービス、じいじやばあば、ママ友やパパ友などを総動員して、チームとして両立体制を築く「マルオペ育児」を提唱しているのですが、FPというお立場からこのマルオペ育児についてどう思われますか?

氏家 とても大切なことだと思います。これからさらに少子高齢化が進み、世の中の支え手が減っていく中では、ますます夫婦共働きがスタンダードになるのは時代の流れです。そんな世の中では、家庭においてもみんなで働いて、みんなで支えないとやっていけないということをもっと広く知ってほしいと思っています。

林田 氏家さんのところへ相談にいらっしゃるのは子育て世代が多いですか?

氏家 育児休業中に家計相談にいらっしゃる方が結構多いです。育休明けは高い保育料の負担など家計的にも厳しい時期ですし、両立も難しい。妻も、目の前のことをこなすのに精いっぱいで、高い保育料と時短勤務中の少ない給料を見比べて、何のために仕事をしているのだろうという気持ちになっています。

 そんな中では、夫が妻に「大変なら辞めてもいいんだよ」と優しい気持ちで、でも安易に言ってしまいがちなんですが、これはダメです。社会背景的に、夫の稼ぎのみで子どもを育てていくことの難しさ、またリスクについて知っていただきたいと思っています。

林田 仕事を辞めてしまうと、将来的に苦しくなってしまうということですね。

氏家 そうです。夫婦2人で仕事も育児も両立することが無理なら、収入の一部を使って家事代行や保育サービスを利用するなど、どうにか辞めずに続ける策を考えてほしい。お金がもったいないと思うかもしれませんが、そのコストは継続的に働き続けるために必要な経費として考えたほうがいいと思います。それが長期的には家計を助けることになるんです。

林田 食費、光熱費のように、家事や育児のアウトソーシングにかかる費用も必要経費として考えられたらいいのですが、なかなかそうは割り切れない人が多いですよね。

氏家 割り切れないのは、目先の収支しか考えていないからです。確かに、時短勤務をして収入は減っているし、保育料もかかっているのに、貯金を取り崩してまで家事代行をお願いするのはなかなか気が引けますよね。でも、それでアウトソーシングせずに夫婦でいがみ合いながら必死に頑張って、夫婦の関係もギスギスし、その結果、仕事も辞めてしまう、場合によっては離婚してしまうというケースも多くあるんです。

 でも、家計はお子さんが3歳を超えたあたりから急にラクになります。保育料がぐっと安くなり、子どもも病気にかかりにくくなり、仕事を休んだり早退したりすることも減ります。時短勤務からフルタイムに戻れれば、収入も上がります。

 なので、子どもが3歳になるまでは、「家計が持ち直すまでの我慢」ということをきちんと理解すると、アウトソーシングへお金を使うことへのハードルがグンと下がります。その考えを是非ご夫婦で理解してほしいです。