「家事をやり続けるなら働いてもいいよ」

ファイナンシャルプランナーの氏家祥美さん
ファイナンシャルプランナーの氏家祥美さん

林田 価値観と時間軸が大切ということですね。氏家さんの価値観もぜひ伺いたいのですが、氏家さんがFPとしてお仕事を始めたきっかけを教えていただけますか?

氏家 私は大学を卒業後、旅行会社に就職しました。仕事は楽しかったのですが、2年ほどであっさり結婚退職して、7年ほど専業主婦をしていました。ところが、子どもが生まれて家を購入すると、幼稚園代はかかるし、家のローンはあるしでどんどん家計が苦しくなってしまって。そこで、家計のやりくりについて知ろうと、マネー雑誌を買って読むようになりました。

 そこにFPの資格取得についての記事が載っていて、自分のために必要だと思って取得したんです。資格取得のために勉強して初めて、自分の住宅ローンの組み方や保険のかけ方が間違いだらけだったと知りました。何より、家計や将来のことを考えると、私自身「仕事を辞めるべきではなかった」ということに気付きました。そこで、私もやっぱり仕事をしようと思い立ち、どうせなら自分が学んだことを生かしたいと思い、仲間と一緒に起業しました。それが12年前のことですね。

林田 いきなり起業ですか! …夫さんは反対されなかったんですか?

氏家 もちろん反対です(苦笑)。専業主婦時代は、家事や育児については完全に私任せだったので、夫は「そのまま家事をやり続けるならいいんじゃない?」という感じでした。

林田 よくある「自分(夫)に支障のない範囲内で」ってことですね? それで氏家さんは納得されたんですか?

氏家 自分で言い出したことですし、「しょうがない」という感じでしたね。私自身も専業主婦期間が長く、家事は自分がやるものというマインドになっていましたし。でも、実際に仕事を始めると責任はあるし、お客様もいらっしゃるし、その中でも保育園の送り迎えなど全て私一人でこなして、完全なワンオペ状態。この時期は本当に大変で、辛かったです。夫ともたくさんケンカして、私自身も強くなって切り開いてきた感じです。

林田 ご苦労が容易に想像できます。そんな中でどのように仕事を続けられたんですか?

氏家 まず、夫とのコミュニケーションの時間を省いたのですが、これは大失敗でした。夫にとって家はくつろぎの場でしたから、私が家で仕事をするのを嫌がりました。そこで、私は毎晩夫が帰宅する前の21時ごろに子どもたちと一緒に寝て、夫が寝ている早朝に起きて仕事をしました。つまり、夫とはすれ違いで顔を合わせない生活にして、仕事の時間を捻出したわけです。

 早く起きて家事もきちんとやって、「仕事も育児もちゃんとやっている」ということを肩肘張って夫にアピールしました。論理的には夫が望んだ「支障のない範囲内」を実現したのですが、ただ、夫婦ともに気持ちがついて行かず、夫婦関係も家族の生活もバラバラになってしまって。さらに小学生になった下の子が学校の勉強についていけていなかったことが分かり、子どもたちの気持ちまで置き去りだったことに初めて気がつきました。

 そこで、一度自分の働き方を考え直して、起業した会社を辞め、フリーランスになりました。働き方をリセットして、子どもと向き合う時間を作り、ゆっくり働くことにしたんです。

林田 それで氏家さんご自身は納得されたんですか? 夫さんではなく、ご自身が働き方を変えることに対して。

氏家 いいえ。自分で考えて、納得して辞めたはずでしたが、悔しい気持ちはありました。自分たちで立ち上げた会社だったということも大きかったと思います。

 ただ、結局仕事が好きなので、仕事量は次第に増えていきました。それとともに子どもたちも成長し、私が家にいない時間も増えました。そして夫も、私がいないときには育児はもちろん、家事も積極的にやってくれるようになったんです。結局、夫は私がいたからやらなかっただけで、いなかったらいなかったで、やればできたんですよね。

 あと、夫はやる気になるととてもきちんと家事をするタイプ。夫が休みで私が忙しいときには、私がいないほうが夫は家事や育児がやりやすいことにも気付きました。私がいないときは夫が、夫がいないときは私がというように完全に区分けしたら、家庭内がうまく回るようになりました。