大田区の歯科医院で子どもたちの歯について、30年にわたって見守り続けてきた倉治ななえ先生は、「よい歯並びのためには、乳歯をむし歯にしない、あるいはむし歯などで乳歯が早期に抜けてしまったりしないことがとても大切」と繰り返し伝えています。今回は、乳歯や、せっかく生えてきた永久歯をむし歯にしないための生活習慣をお伝えします。まずは、なぜむし歯ができるのかという仕組みから伺いました。

むし歯を作らないためには「唾液の川の流れ」を大切にすること

 むし歯は、むし歯菌が出す「酸」によって歯が溶かされる疾患だということは、もうすでによく知られていることだと思います。糖分を含む食べ物や飲み物を口にしたあとそのままにしておくと、「糖分」を餌にしてむし歯菌がネバネバした物質のグルカンを作りだします。このネバネバしたグルカンとむし歯菌の塊であるプラーク(歯垢)の中で、糖分をエサにしてむし歯菌が「酸」を放出、この酸が歯の表面を守っているエナメル質を溶かしていき、むし歯となります

 食後、すぐに歯を磨くことがむし歯予防となるのは、むし歯の最初の一歩となる食べかすや糖分を口の中に残さないことが大切だからです。歯みがきと同時に、歯の表面をきれいにする働きとしてとても重要なのが、唾液の働きです。唾液は常に口の中に流れています。唾液は量が多いほど、しっかり歯の表面を洗い流してくれるというわけです。ですから、ドライマウスの人はむし歯になりやすいのです。口の中はふだんは弱酸性(平均pH値は6.8くらい)です。また唾液の質も大切で、酸を中和する中和力が強い人はむし歯になりにくく、反対に中和力が弱いと、食後いつまでたっても口の中が酸性に傾いているので、むし歯になりやすいことがわかっています。

 ふつう食事をとると口の中は酸性に傾き、しばらくするとアルカリ性の方に傾いて中和され、歯を守るようになっています。これが、ちょこちょことおやつを食べたりあめをなめたりスポーツドリンクをちびちび飲んだりすると、口の中が酸性のままになります。ただ単に、歯の表面に食べかすや甘い飲み物を残さないというだけでなく、口の中に食品や甘い飲み物を入れない時間を作り、たくさんの唾液がしっかりと流れるようにすることが、むし歯を作らない口の中ということになります。唾液がたくさん分泌されるためには、やはりしっかり噛むことが大切です。

 川はまっすぐ流れていたら汚れはたまりませんよね。逆に、大きな岩などにぶつかり流れがせき止められるとその部分にゴミがたまるように、歯並びがデコボコしている部分では、これと同じ現象が、口の中でも起こります。唾液という川がたっぷり流れること、さらにまっすぐ流れるようにきれいに整列した歯並びは、むし歯になりにくい要素のひとつといえるのです。