人は不労所得を得ると冷静ではいられない。いわんや1億円をや

瀧: 宝くじで得た資金で事業を始めるなんて最もハイリスクな選択です。飲食店に行っても3億円分は一生かけても食べ切れない。でも、誤った経営によって3億円を失うのは容易にあり得ることです。

 晴耕雨読の日々を過ごすのも、起業で第2の人生にトライするのも、それ自体は全く悪いことではない。でもそのためには入念な準備が必要で、宝くじの当選をきっかけに始めることではありません。早期退職も起業も、冷静な判断と緻密なプランが欠かせないんです。でも、人はたとえ少額でも、急に不労所得を得ると冷静ではいられない。身に覚えはありませんか。

―― なら、結局、宝くじで1億円当てちゃったらどうすればいいんでしょうか。

瀧: まず親族内トラブルを回避するため、税理士、弁護士に相談しましょう。次に、複数の金融機関に相談し、信頼できるファイナンシャルプランナーを見つけて一緒に資金プランを立て、今の生活を変えないことです。もちろん仕事を辞めてはいけません。人との付き合い方も変えてはいけません。この部分さえしっかり押さえておけば、宝くじが当たってもまず大丈夫です。

―― せっかく宝くじが当たったのに、ものすごく夢がない気がするんですが……。

瀧: そんな皆さんにぜひお聞かせしたいのが古典落語の『芝浜』です。大体こんな話です。魚屋の勝は、仕事のスキルは高いものの大の酒好きで失敗続き。そんな彼がある時、浜辺で財布を拾います。中にはとんでもない大金が入っていました。「これで一生遊んで暮らせる」。テンションが上がった勝は、仲間といつも以上のドンちゃん騒ぎを始めます。

 ところが翌日目覚めると、肝心の財布がありません。女房に聞いてもそんなものは知らないという。

―― あーあ。せっかく宝くじが当たったようなものなのに。

瀧: ところが勝は、ここで一念発起します。「こんな夢を見るのは楽をして、あぶく銭を手に入れようなどと不埒なことを思っているからだ」と反省したんですね。以来、酒を断ち、身を粉にして働き、気がつけば商売は大繁盛。安定した生活を手に入れることができました。

 そしてある日、勝はこれまでの苦労をねぎらい、ありがとうと妻に頭を下げます。ここで、妻は意外な告白を始めます。妻はあの日、夫が拾ってきた大金を見て、発覚すれば夫は死罪になりかねないと思い、こっそりと落し物としてお上に届けてしまったんです。

―― 勝は?

瀧: 全く怒ることなく、「あの時、道を踏み外しそうになっていた自分を救ってくれたのはお前さんが財布を隠してくれたからだ」とその機転に深く深く感謝します。落語って本当にいいもんですね

―― おお。

瀧: 感動した妻は夫の長年の頑張りをねぎらい、久しぶりのお酒を勧めます。そこで勝が一言。

―― なんと?

瀧: 「よそう。また夢になるといけねえ」

―― お後がよろしいようで。

【結論】 宝くじで1億円当たった人の末路は?
 一家離散、貧困化、人生の目的喪失……ろくなことにはならない
 (注)瀧さんの言う“準備”をしておけば大丈夫です

 【解説】 宝くじは、数あるギャンブルの中でも、ものすごく割に合わない“賭け事”です。

 1枚買って7億円が当選する確率は約1000万分の1以下で、交通事故で死ぬ可能性よりはるかに低く、99・999……%の人は、生涯買い続けても1等などまず当たりません。おまけに、控除率(購入代金に占めるテラ銭の比率)は約50%と、競馬や競輪(約25%)も真っ青の高さ。召し上げられたテラ銭は、販売経費を差し引かれた後、地方自治体に分配されることから、経済学の世界では「宝くじ=愚か者に課せられた税金」と定義する人もいます。

 それでも、多くの人が今日もせっせと宝くじ売り場に列をなすのは「万が一にも当選すれば、その日から一発逆転、バラ色の人生が待ち受けている」と信じて疑わないからです。が、マネーの専門家はそんな幻想を真っ向から否定します。瀧さんの話をまとめると、

外れ⇒お金と時間のムダ⇒ろくでもない
当たり⇒親族トラブル、かえって貧困化、やる気の喪失⇒ろくでもない

 当たっても当たらなくてもろくでもない末路になるなら、「そもそも宝くじは買わないという選択が正しい」という結論にならざるを得ません。瀧さんが言う“当選が招く不幸”は決して大げさではなく、実際に2005年には、サマージャンボ宝くじの1等2億円に当選した岩手県の女性が、交際相手の男性に殺害される事件が起きています(判決は懲役15年)。