「当たったらどう使う?」 家族で大喧嘩した思い出

―― 運が悪ければ、「一家離散」のきっかけにすらなりかねない、と。でも、なんか分かります。「もし宝くじが当たったらどうする」という話を家族でしていて大喧嘩に発展したことってありませんか。

瀧: シミュレーションでさえそうなのだから、実際にお金が入ってくると、入念な準備がないとトラブルは必至です。

―― でも、当てた人が、家族にも親族にも黙っていたら無用なトラブルは起きないのでは? たんす預金や海外の金融機関に預けて少しずつ使えば親族にも近所にもばれない。盗難や、税務署に痛くない腹を探られるリスクは置いておくとして。

瀧: 現実には、当たる前は「黙っていよう」と思っていても、多くの人はばれてしまいます。我慢し切れずに自らカミングアウトする人もいるし、隠そうとしてもついつい生活が派手になり周囲に隠し切れなくなる人もいるようです。

―― なるほど。

瀧: 人間の浪費というものは一回始まるとなかなか止まらないものなんですね。普段、2000円の寿司を食べている人が、宝くじが当たって「自分へのご褒美」などといって1万円の寿司を食べたとしましょう。ところが美味しいものを食べた時に出る脳内麻薬は、寿司の金額が5倍になっても、比例して5倍になることはありません。「あれ、おかしいな。じゃあ3万円はどうだろう」と、すぐエスカレートしてしまいます。クルマ、旅行、宝飾品……。浪費はどんどん膨れ上がり、周囲からすぐに「何かあったな」と勘繰られるようになるはずです。

―― 「そんなことには絶対にならない。自分は鉄の意志で自制心を失わない」と思っている読者もたくさんいると思いますが。

「自分は大丈夫」と思っている人ほど危ない

瀧: そう思っている人ほど、危ない。企業側も「急に資産を築いた人」の財布を開くためのマーケティングは研究し尽くしています。ただでさえ、人は「不慣れな金額の取引」は金銭感覚が麻痺して失敗しやすいものなんです。普段800円のランチを食べている人が、別の店に行ってランチが1150円だったらどうします。

―― 慎重にメニューを吟味します。

瀧: でも5000万円で家を買う時、70万円追加すれば、より生活が快適になるオプションが付きますよと言われたら。

―― 「そりゃもう5000万円払うんですから、70万円なんて大した金額ではない」などと思う人もいるでしょうね。

瀧: そうですよね。でも、金額的には、その意思決定はランチの2000倍、吟味すべき対象なんです。それくらい、不慣れな取引ではいい加減な意思決定をしてしまいがちなんです。

 超高級宝飾店で買い物をすれば、豪華なパンフレットやインビテーションが届くようになります。行けばVIPルームに通される。この“あなただけ感”“エクスクルーシブ感”に堪えられる人は多くないですし、一度味わうとそんな生活を諦めることはより難しくなります。「急な富裕化」というのはそのぐらい危険なことで、例えば米プロバスケットボールNBAを引退した人の60%は5年以内に破産しているというデータもあります。

―― 宝くじが当たった結果、固定費が上がって「かえって貧困化」しかねない、というわけですか。だったら、いっそのこと1億円持って引きこもったらどうでしょう。金庫に現金を入れて、仕事はせず、高級品は一切買わず、旅行もしない……。

瀧: そんなふうに大金が入った勢いで仕事を辞めてしまったりすれば、事態は一段と深刻になります。まずこれまでも話したように、1億円は使い始めると想像以上の速さで減っていってしまう。

 それに、労働が私たちに提供してくれているものはお金だけじゃないんです。啓蒙主義を代表するフランスの哲学者、ヴォルテールは、かつて「労働は我々を3つの大きな悪から逃れしめる」と言いました。退屈、悪徳、欲求です。

―― 後の2つは分かりますが、最初は退屈ですか。

瀧: そのくらい退屈というのは人生にとって辛いものなんです。宝くじを当てて仕事を辞めてしまえば毎日、その退屈と向き合わねばならなくなる。

―― そういや、富裕層の取材などをしていると、「お金を貯めようと必死になっている時は楽しかったのに、いざ、一生かけても使い切れないお金を手にしてしまうとつまんない」といった話をこっそり聞かされます。なるほど、宝くじは「人生のやる気を失う」ことにもつながりかねないわけですか。ならば、起業は? 起業なら暇にはならない。