「クズ夫」の本音と「幸せな妻像」のダブルスタンダード問題
<前編から続く>
治部れんげさん(以下、治部) ちょっと厳しめの言い方ですけど、ワンオペを変えたいけど、アクションを起こすことにちゅうちょする妻は、なんだかんだいっても「そういう夫が好き」「夫を支えたい」と思っているのかなと、思ってしまいます。
DUAL編集部(以下、――) 確かに読者アンケートでも「仕事に打ち込む夫が好きで結婚した」「夫を誇りに思っている」などの意見はありますね。
治部 ワンオペ状態ですごく苦しんでいても離婚しない、という人の中には、やはり「そういう相手が好き」という人いますよね、きっと。“トロフィーワイフ規範”じゃないですけど、そういう夫を持っていることはうれしい、という気持ちがどこかにある。
藤田結子さん(以下、藤田) これは独身の方に聞いた話ですけど、親しい友人と集まったらみんな「夫はクズ」とか言っていたのに、SNSには「うちのすてきなファミリー」みたいな投稿ばかりで心底びっくりしたと。
治部 SNSでは幸せな妻を演じてる? ダブルスタンダードですよね。見せたい像と、本音とのギャップがある。本音は違っても、外向きには「夫はよくやってくれている」と言う傾向はありそうです。
家事の負担が高くても不満に思わない日本女性
藤田 日本の女性たちは、他の国の女性と比べると、家事の負担が高くても不満を持ちにくい、という研究結果があります。日本の女性が周囲を見ると、周りの女性も家事を負担しているパターンが多いので、「みんなやってるし」と不満を持ちにくい。つまり、「みんなきっとこんなものだろう」と思っている。逆に、欧米の共働き社会では周囲も夫婦で家事分担しているから、自分だけに家事負担が偏っていると不満にも感じやすい。
治部 日本は、比較対象のレベルが低い、ということですね。
藤田 女性本人が、そもそもワンオペになっていることに気づいていなくて、「なぜ、こんなに毎日しんどいんだろう」と悩んでるケースも多いですよね。
そして、なぜ離婚しないのかという話に戻ると、日本の場合、シングルマザーになると貧困という可能性がチラつくから、その前でとどまってしまうのでは。共働きは増えていても、女性は非正規雇用が多いので、嫌だと思っても夫に“ATM”になってもらうほうがよいと思うのかもしれません。そして「子どものため」にも離婚はしないほうがいい、と考える。
恋愛時の「魅力」が出産後は「ムカつきポイント」に
―― ワンオペで苦しんでいても、夫と一緒にいるのは、「子どものため」「“ATM”として」「誇り」「それでも好き」など、様々な要因がありそうですね。
藤田 恋愛の段階では、いい会社に入ってる、稼いでいることが魅力になる。仕事をバリバリやっている男性が魅力的に見える。でも、結婚して子どもが生まれたら、それが逆にムカつくポイントになるわけじゃないですか。優先順位が性的な魅力でなくなり、もし自分が働きたかったら、「仕事第一の夫」という点で自分が苦しむ。
「主婦で幸せ」な妻と「ちゃんと稼げる」夫という組み合わせならいいけど、現実はそうでないカップルがものすごく多い。でも人間の感情というのは、「今こんな人を好きになってはいかん」みたいに変えられない。やっぱり、恋愛の段階で「稼げない男性が魅力的」と思える女性は少ないんですよね。若い女の子でも「すごいイケメンでも稼げない人は嫌」とか言います。