せっかく海外旅行をするなら、ただ楽しむだけでなく、その国を深く知りたい。そんなファミリーに、ちょっとユニークな体験としてご紹介したいのが、英国各地で開催されている「チャーチ・サマー・ホリデイ・クラブ」です。夏休みの1週間(月~金)、地元の教会関係者とボランティアが集まって、子どもたちに工作やゲームなどをさせるというもの。キリスト教信者以外も参加でき、地元の子どもたちと連日交流できるのが魅力です。地域によっては毎年キャンセル待ちになるほど人気のこのイベントに昨夏、筆者の6歳の子が参加。その様子を取材させていただきました。

 朝10時、こぢんまりとした平屋建ての小学校の扉が開くと、黄色いTシャツに半ズボン姿の大柄な男性が現れた。「グーーーッド・モーーニン! さあ、入って。クラブが始まるよ!」。大声に促され、続々と校舎に吸い込まれてゆく人々は白人が7割、残りがインド系、東アジア系(韓国人が数組)、アフリカ系といったところか。

 この日は4日目とあって、筆者の娘は「勝手知ったる」とばかりに、一番奥の教室へとずんずん向かった。6歳だが体格が小さいため、一番年少の5歳児クラスに入れてもらっているのだ。教室で出席簿にチェックしてもらうと、付き添いの親は帰宅。娘はお気に入りのボランティアのお姉さん、ハナを見つけると、早速一緒に工作をやろうとそばに寄っていった。

英国ケンブリッジ、チェリー・ヒントン地区のホリデイ・クラブでは、水かけ遊びが恒例。学生ボランティア扮するターゲットに、子どもたちはかわるがわる水をかけに行く
英国ケンブリッジ、チェリー・ヒントン地区のホリデイ・クラブでは、水かけ遊びが恒例。学生ボランティア扮するターゲットに、子どもたちはかわるがわる水をかけに行く

 ここは英国ケンブリッジのチェリー・ヒントン地区。一戸建てが連なる、閑静な住宅地だ。英国では夏休みに、各地でキリスト教教会主催の子どもクラブ「サマー・ホリデイ・クラブ」が開催されているが、ここチェリー・ヒントンの「ホリデイ・バイブル・クラブ」は1990年にスタート。例年、5歳から11歳まで、150人以上の子どもたちが参加してきた。昨年は200人以上を受け付けたが、それでも連日キャンセル待ちの列ができ、2017年は256人に定員を増やすという

地元のチェリー・ヒントン小学校がホリデイ・クラブの会場。開場すると心待ちにしていた子どもたちと保護者たちがどっとなだれ込む
地元のチェリー・ヒントン小学校がホリデイ・クラブの会場。開場すると心待ちにしていた子どもたちと保護者たちがどっとなだれ込む

 10分ほどのフリータイムの後、ベルが鳴り、全クラスが講堂に移動。一堂に会してみると、黄色Tシャツのボランティア・スタッフの数の多さに驚かされる。聖職者のみならず、親世代に祖父母世代、それに参加する側から今は運営側に回っている10代など、50人以上いるようだ。その中の若いお父さんたちが、舞台上で寸劇(この日は「左の頬を打たれたら右の頬を差し出しなさい」がテーマ)を始めた。

 英国のコメディー役者ばりのおバカな調子で、口論から殴り合い、大げさに倒れる彼らの姿に、子どもたちはあきれながらも“それで、どうするんだろう?”と見つめている。そこに牧師が登場し、「こんなふうに、相手にぶたれたからと言って殴り返していたら、世界には誰もいなくなってしまうね。それってさびしくないかい?」と問いかけ。「確かにね」と子どもたちがうなずくと、お父さんたちは今度は、やられたほうが右の頬を差し出し、それに驚いたもう一方が改心するバージョンを演じてみせた。

講堂に集まり、ボランティアによる寸劇を鑑賞。道徳の授業のような内容だが、おバカに誇張した演技なので子どもたちは楽しく見ている
講堂に集まり、ボランティアによる寸劇を鑑賞。道徳の授業のような内容だが、おバカに誇張した演技なので子どもたちは楽しく見ている

 キリスト教にとどまらず普遍的な、深いテーマだなあと思いながら眺めているうち、このセッションは終了。年少組は芝生の緑がまばゆい校庭に移動し、グループのリーダー、アリソンが語る聖書エピソードの一部に耳を傾けた。「ユダの裏切りで兵隊たちに囲まれたとき、イエスはどう思ったと思う?」という問いかけに、子どもたちからは「悲しかった」「怖かった」「むかっとした」などの声が。

 わが子は昨年、ロンドンでホリデイ・クラブに参加していたので、なんとなく聖書物語も覚えていたらしい。自分から発言こそしなかったが、「Jesus=イエス」「Judas=ユダ」など、日本では違って発音する人物名にも違和感なく、話についていけたようだ。