朝10時、こぢんまりとした平屋建ての小学校の扉が開くと、黄色いTシャツに半ズボン姿の大柄な男性が現れた。「グーーーッド・モーーニン! さあ、入って。クラブが始まるよ!」。大声に促され、続々と校舎に吸い込まれてゆく人々は白人が7割、残りがインド系、東アジア系(韓国人が数組)、アフリカ系といったところか。
この日は4日目とあって、筆者の娘は「勝手知ったる」とばかりに、一番奥の教室へとずんずん向かった。6歳だが体格が小さいため、一番年少の5歳児クラスに入れてもらっているのだ。教室で出席簿にチェックしてもらうと、付き添いの親は帰宅。娘はお気に入りのボランティアのお姉さん、ハナを見つけると、早速一緒に工作をやろうとそばに寄っていった。
ここは英国ケンブリッジのチェリー・ヒントン地区。一戸建てが連なる、閑静な住宅地だ。英国では夏休みに、各地でキリスト教教会主催の子どもクラブ「サマー・ホリデイ・クラブ」が開催されているが、ここチェリー・ヒントンの「ホリデイ・バイブル・クラブ」は1990年にスタート。例年、5歳から11歳まで、150人以上の子どもたちが参加してきた。昨年は200人以上を受け付けたが、それでも連日キャンセル待ちの列ができ、2017年は256人に定員を増やすという。
10分ほどのフリータイムの後、ベルが鳴り、全クラスが講堂に移動。一堂に会してみると、黄色Tシャツのボランティア・スタッフの数の多さに驚かされる。聖職者のみならず、親世代に祖父母世代、それに参加する側から今は運営側に回っている10代など、50人以上いるようだ。その中の若いお父さんたちが、舞台上で寸劇(この日は「左の頬を打たれたら右の頬を差し出しなさい」がテーマ)を始めた。
英国のコメディー役者ばりのおバカな調子で、口論から殴り合い、大げさに倒れる彼らの姿に、子どもたちはあきれながらも“それで、どうするんだろう?”と見つめている。そこに牧師が登場し、「こんなふうに、相手にぶたれたからと言って殴り返していたら、世界には誰もいなくなってしまうね。それってさびしくないかい?」と問いかけ。「確かにね」と子どもたちがうなずくと、お父さんたちは今度は、やられたほうが右の頬を差し出し、それに驚いたもう一方が改心するバージョンを演じてみせた。
キリスト教にとどまらず普遍的な、深いテーマだなあと思いながら眺めているうち、このセッションは終了。年少組は芝生の緑がまばゆい校庭に移動し、グループのリーダー、アリソンが語る聖書エピソードの一部に耳を傾けた。「ユダの裏切りで兵隊たちに囲まれたとき、イエスはどう思ったと思う?」という問いかけに、子どもたちからは「悲しかった」「怖かった」「むかっとした」などの声が。
わが子は昨年、ロンドンでホリデイ・クラブに参加していたので、なんとなく聖書物語も覚えていたらしい。自分から発言こそしなかったが、「Jesus=イエス」「Judas=ユダ」など、日本では違って発音する人物名にも違和感なく、話についていけたようだ。