仕事とお金 不安は当然あるけれど、なるようにしかならない

―― キャンサーペアレンツを立ち上げる前は、家族とも相談したんですよね。

西口 はい。働き方を変えるときは収入が減るので、家族にも関係してきます。親や家族の心配としては、「やりたいことをやるのはいいけれど、大丈夫なの?」と。そういうことも含めて、いいよと言って応援してくれていて。家庭の中ではキャンサーペアレンツの活動の話を全くしないんです。妻は僕が何をやっているか活動の細かい部分には立ち入らず、自由にやらせてくれます。ありがたいことです。

―― 働き方を変えるときには収入面の変化も出てきますが、お金の面ではどのように考えましたか?

西口 生命保険や家のローン、後は遺族年金といった話と貯金をどう殖やすかについて、そういうことも色々と考えました。でも、突き詰めるとお金に関しては今までやってきた分しかなく、今からどうあがいても大きくは変わらないんですよね。今から毎週宝くじを買って当てるんだとか、または人の2倍以上働いて給料を1.5倍にするとか、そういうことしかない。

 お金の不安は当然ありますよ。でも、なるようにしかならないし、今じたばたしても仕方ない、と僕は思います。もし5年、10年経って、本当にお金がないわとなったら、そのとき考えたらいいんじゃないかと思います。仕事は大切ですよ。お金を得るための仕事という考え方も当然あるし、生活のためのお金も大事です。一方、社会との接点という視点から、働くことで生かされているという人も大勢います。給料が高い・低いではなく、本人からすると生き甲斐という側面もありますよね。収入とやり甲斐は結び付けて考えられがちですが、そこは分けて考えたほうがいいと思いますね。

―― 病気をきっかけに、身近な家族の関係性だけでなく、「またいつか」としていた親戚や近しい友人との距離が縮まる場合もあるようです。

西口 命は誰でも限りがあるものなので、「明日ではなく、今しよう」となるんでしょうね。僕は3人兄弟で病気になる前はそれほど連絡を取っていなかったのに、病気になってからは子ども同士を会わせるという口実でちょくちょく会うようになりました。変わり過ぎて逆にこっちは焦りますよね。「え? 俺が死ぬと思っているの?」って(笑)。

―― 今そこにあるささやかな幸せに目を向ける大きなきっかけになると思います。

西口 どこかで自分を通して考えるんでしょうね。何かしてあげたいという気持ちはどこかにあるんですけど、当事者の家族ができることがすごく限られる…何もしてあげられない、というところで葛藤もある。それで、回り回って、「今までどおりでいいやん」ということになるんです。

―― 一周回って、やっぱり今の日常を大事にしようということになるんですね。誰もが当事者に限らず、家族や職場の同僚という立場になり得ます。身近に当事者と接する人の中には、どういうふうに関わってあげたらいいのか、何かしたいのだけどどうしたらいいか分からないという人がいますが、そういった方にアドバイスをいただけますか?

西口 それはすごく難しいところですね。当事者の悩みや思っていることとパートナーが思っていることは全然違います。キャンサーペアレンツの活動を通じて色々な人に会いましたが、当事者は意外と楽観的で「なるようにしかならない」と思っている。でも、家族はそうではなくて、自分にできる限りのことをしてあげたい、と。「もしかしたら」という可能性があるならそこに賭けたいとなりがちです。本人が「これでいい」と思っているのに、その発言を周囲は「諦めるの?」と通じ合えなかったりする。食事療法やサプリメント、漢方など自分のためにこんなにも頑張ってくれているのに、そこでやりたくないといったら角が立ちます。そういうふうに、お互いを思いやり過ぎて疲弊してしまうんです。

 だから、様々な最終選択権は当事者に委ねてもらえるといいですね。当事者と配偶者は折り合わないことが多く、分からないという前提の中で接しないとすれ違ってしまいます。一番身近な人に対して期待し過ぎない。そこは大きいと思いますね。

―― 西口さん自身も、そういった経験はありましたか?

西口 最初はありましたよ。「あの人がいいって言っているからやっておこうか」という感じで、仕事に復帰してしばらくはとにかく食事に気をつけて、体に悪いものは摂らないということを徹底していました。ほぼ毎日お弁当を食べ、野菜中心の食生活を送り、食後には青汁を飲み、しいたけエキスを飲み、そしてお肉とお酒は控えました。

 最初はそれで治るんだという感情が妻と僕のお互いにあって、続けていたんです。生搾り野菜ジュースがいいと聞けば、1日1リットルを飲むということも。でも、僕は味が苦手で全然おいしいと感じないんですね。野菜も有機野菜でというと、色々制限もあります。例えば、買い物に行ったら、今日は「有機の小松菜がない」ということになるんです。それで、今日は有機がないから、ニンジンに変えたり、「有機でなくても普通でいいか」となってアレンジが加わったり。そもそも、有機野菜は割高なので出費も増えますし、薄めたりしないので、たくさん使ってもジュースはちょっとしか出ない。飲むほうも作るほうもしんどいから、3カ月くらいでやめにしようかということになりましたね。お肉がダメな理由も「牛が食べている化学飼料が入っている」ということだったり。それを言うと、外食もできない。ストイックになりがちですが、そこは自分や家族との間でそれぞれ折り合いをつけながら程良く付き合っていきたいところですね。