子どもへの思い “お父さん”としてできることとは?

―― 親としては、お子さんの精神面も心配ですよね。

西口 そうですね。告知に関しては妻が娘に話をしてくれたものの、僕は「これまでお父さんらしいことをやってきたかな」ということを思いました。娘のおむつを替えたのも、お風呂に入れたのも数えられるくらい。平日に家族サービスしたかというとそうでもなかった。子どもからすると、それでも「お父さんだよ」と言ってくれるかもしれない。お母さんのことは好き。でも、子どもにとってのお父さんはどんな人なのかを考えると、僕のエゴとして何にもしてくれないお父さんだったらいやだと思いました。子どもの中のお父さんの思い出が働いているところしかないとやはり悲しいので。働き方を変えたことにより、家族と過ごす時間も増えました。

―― “お父さん”という存在についても、立ち止まって考えたんですね。

西口 これから色々な遊びも一緒に楽しめるというときに病気になり、自分自身のこと、そして自分が家族にできることを深く考えました。一緒に遊びに行ったりすることも大事。だけど、子どもを中心に生活をするということが、子どもにとって本当にいいのかとか、子どもに言葉や手紙を残すだけでいいんだろうかとか……。

 それで結局、「おまえのため」ということではないなと思ったんです。「お父さんはお父さんで楽しいことを真剣に取り組んでいる。だから、俺の生き様を見ておけ」くらいの感じのほうが、将来子どもからするとお父さんはこういう人だったと色濃く思ってくれるんじゃないかと思いました。幸せな自分だからこそ、巡り巡って相手を幸せにできる。自分だけがいいという意味ではなく、「自分のために」生きるからこそ、「誰かのために」生きられる。というのは僕の話であって、一般的にそうかというと、そうではないと思うんですが(笑)。人によっては少しでも多くの時間を子どもと一緒に過ごしたいと思うかもしれない。ただ僕の場合は、がんになって「自分のために生きよう」と考えるようになりました。

―― その楽しいことこそが、がん患者をサポートする「キャンサーペアレンツ」の活動なのですね。

西口 今の一番の望みは元気に長生きすることです。考えたくはないけれど、もし仮に僕が死んでしまった後でも、将来子どもが当事者に近い存在になったときに、キャンサーペアレンツのことをいいなと思ってもらえるような。そんなお父さんってなかなかいないですよね。子どもが大人になったとき、改めて父親のことを感じてくれたらうれしいです。

―― 西口さんは“生きているのが奇跡”と自分でも言うほど、自分の命と日々向き合いながら、いつも自然体で、明るく前向きなメッセージを送り続けています。日ごろから意識していることはありますか?

西口 毎日を楽しく過ごしたいですよね。こういう活動をしていると、うまくいかないことはたくさんあるんです。仕事も家庭も活動も、「もっとこうなったらいいのに」ということはいくらでもあります。でも、いちいちイライラしなくなりましたね。病気になる前であれば「もうやりたくないな」とか、「何でやってくれないんだろう」とか思ったかもしれない。今は、「やってくれてることが自体がありがたい」と思えるようになりました。

課題の解決に向けて西口さんが頭を抱えて考えているとき、応援のために娘が描いてくれた似顔絵
課題の解決に向けて西口さんが頭を抱えて考えているとき、応援のために娘が描いてくれた似顔絵

―― 闘病中で一番大変なのはやはり当事者であり、悲しみや不安から身近にいるパートナーや家族に当たってしまう人もいます。そんな中で、西口さんが日常に感謝できるのはなぜでしょうか?

西口 なぜなんでしょうね。人は自分のことしかコントロールできませんよね。でも、病気になって自分のこともコントロールできなくなりました。自分のこともできないのに、人をコントロールすることなどできないって思いました。

 長い入院期間に、洗濯もできない、お風呂に入れない、ごはんも食べられない、何にもできない自分に妻は毎日付き添ってくれて。洗濯物を持ち帰ってくれたり、言葉じゃなくそういう行動一つ一つにありがたみを感じ、ささいなことで怒っていた自分がばからしいなと感じました。病気になる前の日常はものすごいスピードで毎日が過ぎていくので、そういうことに気づかなかった。

 日ごろ生活していると、仕事の中でも、家庭の中でも、やってくれたらうれしいなとか、こんなふうになったらいいなという期待がありますよね。期待に添わないと、当然ですけどイライラする。でも、相手に期待をするよりも前に、だったら次にやってもらうように自分はどうしたらいいか。そう考えるようになったのは、病気の後ですね。やってくれること自体がありがたい。何というか、病気によって価値観が変わりましたね。