「信頼貯蓄」の考え方 仕事に真摯に向き合い、周囲に優しくなれる

―― 西口さんは週5日勤務から週3日前後のシフト勤務へと働き方を変える場面でも、日ごろの信頼関係を軸に、職場や周囲と本音の話ができている印象があります。治療と並行して働きやすい環境を職場と調整していくうえで、大切だと感じたことは何でしょうか?

西口 職場との話し合いでありがたかったのは、復帰を前提に話をしてくれたこと。会社を休むとき、復帰するとき、日常に戻るまで、そして、働き方を変えるとき。お互いに対する信頼があったからこそ、本音で話をし、理解し合えた部分が大きいと思います。

 がん治療と仕事の両立について語られるとき、どうしても「がんになったとき、どうする?」ということがクローズアップされがちです。もちろん、そのときに患者本人だけでなく、病院、医師、企業、家族でできることはたくさんあり課題が多いのも事実。でも、同時に普段の周囲との関係性も大事だと思います。

 普段の働き方の中で職場と信頼関係が築けていて、信頼の貯蓄があるか。この“信頼貯蓄”という考え方を持つことで、今の仕事に真摯に向き合うことができますし、周囲に対しても優しくなれると思います。そして、がんという病気に限らず、いつか来るかもしれないしかるべきときに、その貯蓄がモノをいう。僕にそのことを気づかせてくれたのが「がん」という病気でした。

子どもへの告知に正解はない 考えるそのプロセス自体が大切

―― キャンサーペアレンツのイベントでは、子どもに病気のことを伝えるか、伝えないかという点で揺れる親心が印象的でした。

西口 僕は伝えたほうが良いとは思うものの、正解があるわけでもなく、うまい方法があるわけでもありません。「考える」というというプロセスがすごく大事で、それは子どもにも伝わるはずです。子どものことを考えて悩むこと自体、家族の絆は深まっているんじゃないですかね。年齢にもよりますが、意外と子どもは大人が思うほどには子どもじゃなくて、なんかしんどそうだなとか、悲しそうだなというのをちゃんと見てるんです。子どもが察してきていることは、日々の生活で親もどこかで感じているはずで、そういうときに親もそろそろ伝えたほうがいいなということに自然となるのだと思います。「言うべきだ」と僕は思いません。でも、子どもに伝えた親たちの声を聞くと、みんな後悔していないんですよね。だから、色々と悩み考えた結論として「言おう」って思った人たちには、「言っても大丈夫だよ」って伝えたいですね。

―― 西口さんもお子さんに自分の病気のことを伝えようかどうか迷いましたか?

西口 はい、悩みました。子どもにうまく伝えられると思えなかったんです。がんの告知を受けた当時娘は年長2月で、卒園式間近。そのときは言えなかったんですが、退院後僕の体調が落ち着いて、入学式も終わって、仕事にも復帰した後、娘が小学1年のときに妻が話してくれました。

―― いつ、誰から話そうかということは夫婦で話をしたのでしょうか?

西口 いえ、僕が伝えようかどうしようかと迷っているときに、妻が伝えてくれました。僕はその場にいなかったので、妻がどう伝えたかは分からないんですが。でも、娘は落ち込むことはなく、僕との関係性も何も変わりませんでしたね。

娘に病気について伝えた後、家族でお詣りに行くなど一日一日を大切に、家族の絆が深まった
娘に病気について伝えた後、家族でお詣りに行くなど一日一日を大切に、家族の絆が深まった