子どもを持つがん患者同士がインターネット上で交流することができるコミュニティーサービス「キャンサーペアレンツ~こどもをもつがん患者でつながろう~」。主宰する西口洋平さん(37歳)がステージ4と告知されたがん経験やそのときに感じた孤独や不安から、「似た境遇の人同士が語り合い、前向きになれる場をつくりたい」と、2016年4月に立ち上げた。現在、1000人以上が登録している。

 西口さんは現在も、抗がん剤による治療や副作用と付き合いながら、仕事と並行してキャンサーペアレンツの活動を地道に継続中。子どもを持つがん患者たちが本音で語り合うイベントの様子やキャンサーペアレンツ立ち上げの経緯を紹介した前回に引き続き、今回は、仕事とキャンサーペアレンツの活動・治療との両立生活、家族への思いについて西口さんから話を聞いた。

(上) 小さな子を持つがん患者 不安と悲しみの先の希望
(下) 西口洋平 ステージ4のがん経験 子に伝えたいこと ←今回はココ

登録者1000人の喜びを共有できる奇跡に感謝

日経DUAL編集部(以下、――) この6月、キャンサーペアレンツのサイト登録者が1000人を超えました。立ち上げから1年3カ月という短期間にこれだけの人が集まったことに、手応えを感じているのではないでしょうか。

胆管がん経験者であるキャンサーペアレンツ代表 西口洋平さん
胆管がん経験者であるキャンサーペアレンツ代表 西口洋平さん

西口洋平さん(以下、敬称略) 僕自身の思いで始めたこのキャンサーペアレンツに、1000人を超える方が集まってきてくれたことにとても驚いています。正直な気持ちとしては、それ以上に僕が今ここで元気でいられることに、まず驚いています。2015年2月にステージ4という胆管がんの告知を受け、キャンサーペアレンツを立ち上げた当初、僕は手術ができない状態であり、元気でいることが奇跡に近いと医師からも言われました。その人間が、1年経っても元気でいられる。キャンサーペアレンツがなければ、もう既に死んでいたかもしれません。それぐらい僕に勇気とパワーをくれているものがキャンサーペアレンツであり、そこに集う仲間であり、サポートしてくれる方々であり、出会うすべての人たちだと思っています。

―― キャンサーペアレンツの構想から2年、これまで地道に活動を続けてきた実感としてはいかがでしょう?

西口 キャンサーペアレンツの活動を始めて、「僕だけじゃなかった」という実感はありますね。「キャンサーペアレンツに参加して、元気になった」という人が一人でも目の前に現れてくれるだけで、僕自身もめちゃくちゃうれしい。自分がしていることの確認というか、それを目の当たりにすることで達成感もあるし、誰かのためになっていると思えます。

 僕が初めてステージ4のがん患者であると公にしたとき、「実は私も"がん"でした」という人も何人か現れて、僕の全く知らないところで彼らも孤独な闘いをしていたんだと思うのと同時に、「がん経験者である」ということが強い仲間意識へとつながることが分かりました。これまで数多くの応援メッセージをいただいたことで本当に勇気づけられたし、僕も前を向いて生きていこうと心から思えました。

ステージ4のがんを職場へ伝えた日 ありのままを本音で話した

―― 新卒で入社した会社の仕事を続けながら、キャンサーペアレンツの活動、そしてご自身の治療とを日々どのように両立されているのでしょうか。

西口 キャンサーペアレンツを本格的に始めるため、雇用契約としては昨年の夏から週5日のフルタイム勤務をやめて、アルバイト契約・シフト勤務という形で週に3回ほど会社で働いています(詳しい経緯については前回の記事を参照してください)。キャンサーペアレンツを立ち上げた当時は正社員だったのですが、週に1回は病院へ行かなければいけないので、週5日の勤務とはいえ年休を消化しながら週4日勤務するという状況でしたね。現在は1週間の中で日にちを振り分けて、会社へ行く日は仕事、それ以外の日を治療とキャンサーペアレンツ活動に充てるというふうにしています。

―― 個人差はありますが、抗がん剤の治療には副作用もあります。

西口 今は体調が比較的安定していて、安静にしなければいけないくらい体調が悪いということはほとんどありません。体調が安定しないときはキャンサーペアレンツの活動を少し自粛するなどして、無理のない範囲で続けられるように調整しています。

 僕の場合、主な副作用としては、だるさやほてり、おなかのハリ、食欲低下、便秘や肌荒れなどがあります。あとは、治療を始めてからずっと続くのが、睡眠が途切れること。けっこうつらいんですが、うまく付き合ってます。だるさは当日と翌日ぐらいまでなので、できるだけ寝るようにして、症状が落ち着くのを待つという感じです。でも、今のアクティブな状態が続くのであれば、これぐらいの副作用は僕にとって全く問題ありません。この状態が長く続くよう、願うばかりです。

娘とともに。闘病生活と仕事、キャンサーペアレンツの活動の両立を応援してくれる家族の存在があるから頑張れる
娘とともに。闘病生活と仕事、キャンサーペアレンツの活動の両立を応援してくれる家族の存在があるから頑張れる

―― 働く親ががんになったとき、自分の体の心配はもちろん、仕事のこと、家族のこと、治療のこと、様々な心配事がある中、毎日は刻一刻と過ぎていきます。西口さんの場合、職場へ病気のことを伝えるタイミングはどうされたのでしょう。

西口 検査入院をした時点では、「検査が終わればすぐに退院できる」と思っていたので、会社には「すぐに戻ってきます」と伝えていました。その後入院、そしてすぐに手術となり“ステージ4”というがんの告知を受けるものの、その時点では心の整理がつかず職場には「しばらく入院することになった」とだけ伝えましたね。入院期間が2週間を超えることになり、同僚などから「大丈夫?」とか「ぶっちゃけどうなの?」などの連絡が入るようになって。手術後の回復を待ってから、会社や上司、近しい知人にはがんであることを打ち明けました

―― 体が回復してからといっても、不確定要素も多い中、職場に打ち明けるのには精神面でもエネルギーが必要です。

西口 会社へは、まず人事部長に話をしました。最初は打ち明けるたびに涙が出てくる始末で、お互いに悲壮感が漂い、涙を流してしまうことも。会社近くの喫茶店で、自分ががんであること、今の症状、抗がん剤治療のこと、復帰日の目途などありのままを伝えましたね。