「月曜日の朝」

 月曜日の朝は、目がまわるほどの慌ただしさだ。

「颯太、早く食べちゃって。保育園間に合わないよー。杏莉、食べたら着替えちゃいなさい」

 子どもたちをせかしつつ、自分の支度もしなければならない。

「おい、まだかよ。月曜は朝イチで会議があるって言ってるだろ。早くしろよ」

 すでにスーツに着替えた秀介が、いらいらと子どもたちを見下ろす。子どもたちが、おびえたような顔で秀介を見る。そんな言い方をしたらますます機嫌が悪くなって、なおさら支度が遅くなるではないか。多香実は辛抱強く、ほらほら、と促した。杏莉と颯太を秀介に送ってもらわないと、自分が仕事に間に合わなくなる。大急ぎで子どもたちの支度をして、秀介に預ける。

「もうこんな時間じゃないかっ! ほら、早くしろ。遅刻したらお前らのせいだぞ」

 脅し文句をぶつぶつと言いながら、靴を履いている。

「パパ、これお願いね」

 大きな布バッグを秀介に渡す。バスタオル、給食セット、うわばき、昼寝用の布団シーツが入っている。月曜日は荷物が多い。昼寝用の布団は園で用意してくれるが、シーツは各自で用意する。月曜日にセットして、金曜日に外して持ち帰って洗うことになっている。

「まじかよ、こんなのやってる暇ないよ。保育園に電話しといてくれ」

「電話? なんて?」

「シーツ置いていくからお願いしますって」

「そんなこと言えるわけないでしょ」

「おれはやらないからな」

 秀介はそう言い残し、2人の子どもの背を押して玄関ドアを開けた。颯太がいたいよう、とべそをかく。

「泣くな!」

 閉まったドアの向こうから、秀介の声が聞こえる。すぐにドアを開けて、颯太をなだめてやりたかったが、そんな時間はない。多香実だって、仕事に行かなければならないのだ。

 朝の保育園の送りは、秀介の分担になっている。前と後ろの3人乗りの自転車で保育園まで送り、そのまま最寄り駅まで自転車で行き、駐輪場に自転車を置いてから、電車での通勤となる。家から保育園までは自転車で15分ほどだ。最寄駅を少し通り過ぎなければならず、駅に戻る時間が惜しいが、同じ保育園に姉弟で入れただけでも良しとしなければならない。

 駅から、秀介の勤める食品メーカーの最寄り駅までは、電車を乗り継いで30分弱。そこから会社までは徒歩10分程度だ。家を出たのが7時45分なので、8時には園に着くとして、そこからシーツをセットしても、始業の9時には間に合うだろうと思う。

 多香実は家のなかを足早に移動しながら、自然と険しい顔になっている自分に気付く。「まゆげとまゆげのあいだに、せんがあるよ」と、前に杏莉に言われてからは、なるべく意識して笑顔を試みているが、気付けばすぐに眉を寄せてしまっている。

 朝は本当に慌ただしい。毎朝6時には起きているのに、まったく時間が足りない。洗い物をして、夕飯用の米を研いでタイマーセットする。子どもたちが脱ぎ散らかしたパジャマを洗濯機に放り込む。昨日の洗濯物は、昨夜のうちに洗って干してある。化粧は起きてすぐに済ませた。髪をショートボブにしてからは、ブラシでざっととかすだけで済んでいる。あとは着替えて出かけるだけだ。

 ファンヒーターを消して、床暖房の電源を落とす。コートを羽織りバッグを肩にかけて、子どもたちのコートを小さく畳んで手提げに入れた。お迎えは多香実が行くので、そのときに子どもたちに着せるためのコートだ。冬はなにかと荷物が多くなる。満員電車で舌打ちされることにはもう慣れた。

 鍵を確認し、腕時計をにらみながら駅へ急ぐ。多香実の会社がある駅までは、電車を乗り継いで45分ほどだ。そこから歩いて10分ほどのところに、多香実の勤める「サンクルーリ」がある。