皆さん、こんにちは。株式会社子育て支援の代表取締役、熊野英一です。今回のコラムでは、アドラー心理学が私たちに教えてくれる「勇気づけコミュニケーション」や「幸せの3条件」が、最新の研究や古くからの教育論と密接につながっていることをご紹介したいと思います。

日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか

 6月も私は都内で計6回、アドラー心理学に基づく「ほめない・叱らない!子どもの自立心を育む勇気づけ子育て」というテーマの講演をしました。7月以降も既に複数の小学校で講演をすることが決まっています。なぜ今、日本でアドラー心理学がこのように注目されているのでしょうか?

 私は、日本中に「勇気くじき」がまん延していることが背景にあると考えています。勇気がくじかれた状態とは、「不完全な部分も含めたありのままの自分」を認めることが難しいと感じたり、他者を信頼できなかったり、自分の存在価値を感じられないような状態を言います。様々な調査が「勇気くじき」がまん延する日本の現状を明らかにしています。 

 日本青少年研究所が2015年8月に発表した「高校生の生活と意識に関する調査 日本・米国・中国・韓国の比較」を見てみましょう。4カ国の高校生が自分自身をどのように捉えているかをポジティブ・ネガティブ両面から質問したものです。

 「自分の希望はいつか叶うと思う」「私は将来に対し、はっきりした目標をもっている」「私は人並みの能力がある」「私は体力には自信がある」「私は勉強が得意なほうだ」

といった、自分を肯定的に捉える質問において、日本の高校生の自己評価は他国の高校生のそれに比べて最も低くなっています。

 また、「自分はダメな人間だと思うことがある」という自分を否定的に捉える質問においては、他国の高校生に比べて日本の高校生の「とてもそう思う」「まあそう思う」と回答した者の割合は極めて高い数値になっています。

 将来を悲観しながら、自分はダメな子だと決めて生まれてくる赤ちゃんは、世界中どの国にもいません。では、いつごろから、日本の子どもたちの自尊感情 ―他者からの評価ではなく、自分が自分自身をどう思っているか、ありのままの自分を尊重し受け入れることができているか― は他国に比べて際立って低下していくのでしょうか?

 青山学院大学教育人間科学部の古荘純一教授は、自尊感情を含むQOL(Quality of Life=生活の質)尺度を開発して、子どもの精神面の健康度を測る取り組みをしています。古荘教授の『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか 児童精神科医の現場報告』(光文社新書)で明らかになった研究結果をご紹介しましょう。

 調査結果によると、小学校2年生から中学3年生まで、学年が上がるごとにQOL総得点も低下していくことが分かりました。また、精神的な健康を構成する6領域のうち「自尊感情」と「学校」の項目の下がり方が特に顕著で、統計学的な有意差が出ました。学業やクラブ活動などで常に他者と比較され、競争的な環境で結果を求められ続けている日本の子どもたちの悲鳴が、データから聞こえてきそうに感じるのは私だけでしょうか。