「ありがとう」と「笑顔」を大切にしてほしかった

 長女としては、身内に対しての甘えもあったでしょうし、いつでも「ありがとう」と笑顔で応えられる気持ちではなかったのかもしれません。でも私はそういう態度が許せず、ことごとく注意していました。

 私ともめ事になったときは、叔母である私の妹にメールをしてガス抜きをしていたみたいです。妹に「『お母さんにこんなこと言われた』って愚痴を言ってきたよ、ほどほどにしてあげたら」なんて言われたこともありました。また、当時の部活の先生を姉のように慕っていたので、先生に話を聞いてもらっていたようです。確かに、ちょっと返事しなかっただけですぐに怒るので、うるさい母親だと感じていたと思いますよ。でも、話を聞いてくれる人が周囲にたくさんいてくれたこともあって、中学校を卒業するころには不機嫌そうな態度を見せることもなくなっていました。

 仕事柄、愛嬌のある後輩たちに囲まれていたので、自分の娘にも無意識にそういうことを求めてしまっていたのかもしれません。振り返って考えてみると、求めているレベルが高過ぎたのかも(笑)。長女はクールな性格で、体育会系。運動部で散々鍛えられていたので、よその方への挨拶は問題ありませんでしたが……。

 喜びの感情を表したり、人に「ありがとう」と声に出して言ったりすることが苦手な子はいると思います。でも、そういう子こそ、日ごろから意識してやっていないと、いざというときに自然と言葉が出てこないんです。アナウンサー採用の面接を何年も担当していますが、緊張してしまったせいか、全く笑顔を見せられないまま面接を終える学生さんに出会うことがあります。もったいないですよね。就職の面接でも、仕事をしていくうえでも、第一印象や感情表現は大切だと思っています。特に「笑う」ということを、長女にも忘れないでいてほしかったんです。

 「何かをしてもらったら『ありがとう』と言える」「『お先にどうぞ』という思いやりの気持ち」。女だから、女のくせに、という言葉は好きではありませんが、こういう「女性らしさ」はとても魅力的だと思います。これは私が山本周五郎や北原亞以子の書く時代小説の女性像に影響を受けているせいかもしれませんが(笑)。