気をつけるべきは「不審者」? それとも?
日本では、犯罪が起きると「なぜあの人が」という話になりがちですね。これは、犯罪が起きる理由を「人」の中に見つけ出そうとするからであって、犯罪学では「犯罪原因論」と呼んでいます。
一方、犯罪を「場所」に注目して考える立場を「犯罪機会論」と呼んでいて、海外では犯罪を予防する上で最も重視されています。ところが日本では、犯罪機会論はあまり知られていません。
――その2つには、具体的にどういった違いがあるのでしょうか。
認識するリスクの元が「人」か「場所」かという点で違うわけですから、防ぐ方法が異なってきます。例えば、日本ではよく「不審者に気をつけろ」と言いますが、海外では「不審者」という言葉は使われません。その理由は、動機の有無は見た目で判断できないから。たとえば、このポスターをご覧ください。
これは、アメリカのニュージャージー州にある駅に貼られている防犯ポスターで、「この絵のなにが問題なのか」と問いかけています。なにが問題だと思いますか?
――そうですね…奥に座っている男性でしょうか。いかにも怪しく見えます。
日本では、そうなりがちですよね。しかし、ここで考えるべきは、「どの人が不審者なのか」ではなく、「どの場所で犯罪が起こりそうか」ということ。誰も座っていない座席シートの下に、箱がありますよね。この持ち主は不明なので、「不審物」ということになります。もしかしたら、爆発物が放置されているのかもしれません。非常に危険な状況です。
こういった景色に潜むリスクに、すぐに気づく目を育てていかなければならないのです。つまり、安全と危険は、「人」で判断すべきものではなく、「場所」で判断すべきものなのです。