安全な「入りにくく見えやすい場所」とは?

――DUAL読者は、お子さんを遊ばせるのに安全な公園を知りたいと思っていますが、どういう公園なら安全でしょうか。

 残念ながら日本では「犯罪機会論」が普及していないので、「この公園なら安全です」と自信を持って言える公園は、なかなか見当たりません。そこで、私が小学館から出版した『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』の中で紹介した事例から、いくつか取り出して説明しましょう。

 これは、キューバとタンザニアにある公園です。キューバの公園は低いコンクリート壁で囲まれ、タンザニアの公園は遊具の周りにフェンスがあります。どちらも「入りにくい」場所ですね。このように、海外では、複数の遊具を一カ所に集め、そのスペースをフェンスで囲むのが普通です。だから、ディフェンス(防御)なのです。これなら、襲うのも、だまして連れ出すのも困難ですよね。

 また、どちらも、遊具のそばにベンチがありません。実はこれも大事なことで、日本の公園には、よくベンチがありますが、そこに見知らぬ大人が座っても誰も注意を払いません。その大人が、遊具で遊んでいる子どもにやさしく話しかけ、親しくなって連れ去ることが容易にできてしまいます。

 そういった連れ去りを防ぐには、遊具のそばにベンチをおかないこと。親は立ったままで子どもを見守ることになって少し大変ですが、子どもの疲れ具合が分かるので、連れ去りだけではく、事故を予測して予防することにもつながります。

 海外には、遊具を背にした外向きのベンチを、フェンスの外側に置いている公園もあります。外向きのベンチなら、子どもを狙った犯罪者は後ろ向きに子どもに話しかけなければならず、それは不自然なので周囲から目立ち、子供も警戒しますよね。親がそこに座れば、周囲から子どもを物色している犯罪者を見張ることもできます。

――DUAL読者は、住む場所の安全性にも関心がありますが、どういう点が重要でしょうか。

 このマンションをご覧ください。

 これはカナダのミシサガ市にある2つのマンションです。デザインはよく似ていますよね。

――ひと続きの建物かと思いました。そっくりですね。

 それもそのはず、同じ建築業者が建てたものなんです。これを見る限り、犯罪が起きる確率も同じ気がしますが、実際はそうではありませんでした。

 建築後の13年間で、右側のマンションから警察に通報された件数は125件。それに対して、左側のマンションは289件でした。

――左側のほうが、2倍以上も犯罪が起きていたんですね! なぜそんなに違ってしまったのでしょうか。

 きちんとした理由があります。右側のマンションは、所有者の要望で「犯罪機会論」に基づいて設計されました。例えば、マンションの駐車場や公園も、「入りにくく見えやすい場所」になっています。

 ところが、左側のマンションは、犯罪機会論を取り入れませんでした。そのため、マンションの駐車場や公園も、「入りやすく見えにくい場所」になり、その結果、犯罪が多発してしまったのです。

 最近の状況を見る限り、「日本は世界一安全」とはもう言えません。『犯罪白書』によると、実際の犯罪発生件数は、警察が把握している犯罪認知件数の5倍に上り、実際の検挙率は1割にも満たないのです。大切な家族を守るためには、公園やマンションなどを選ぶ際も、「犯罪機会論」の視点から、その安全性を評価することが必要になってきているのです。