「人」から「場所」へ、発想の転換を

――日本は、防犯の取り組みが海外より遅れているということなのでしょうか。

 はい、日本は防犯対策後進国です。それでも、これまで比較的安全だったのは、犯罪の機会が多くても、それを利用したがる人が少なかったからです。言い換えれば、犯罪者が生まれにくかったから、必死で防犯対策を講じる必要もなかった、ということです。

 その背景には、日本特有の文化があります。日本は、個人の自由よりも集団の秩序が重んじられ、ささいなルール違反でも、集団の和を脅かすものとして強く非難されてきました。ふらふらと犯罪の世界に行きそうになっても、所属する集団が干渉やお節介によって、無理やり引き戻していたのです。

 日本型雇用といわれる年功序列と終身雇用も、犯罪予防に貢献していました。アフター5も上司に付き合わなければならない若いサラリーマンは、犯罪への誘惑があっても、犯罪をする時間を確保できなかったのです。

 しかし最近の日本は、西洋の個人主義の影響を受け、集団の拘束力が弱くなってきています。集団の個人を引っ張る力が弱体化すれば、将来、犯罪多発国に見られるような、自由を悪用して犯罪へと走る人が増えてくるかもしれません。走っていこうとする人を、集団がつなぎ止められないなら、当然、そうなりますよね。

 だとすれば、今のうちに、そうした状況を想定した対策、つまり、人々の自由度が高まり、犯罪者が生まれやすい社会になっても、犯罪をあきらめざるを得ないような物理的環境をつくり出す必要があるはずです。

―――犯罪者が犯罪を「あきらめる」環境は、どうすればつくれるのですか。

 以前にもお話ししましたが、犯罪が起きやすい場所には、分かりやすい2つのポイントがあります。

・(だれもが/犯人も)入りやすい場所
・(だれからも/犯行が)見えにくい場所

 ということは、安全な場所にするためには、

・(だれもが/犯人も)入りにくい場所
・(だれからも/犯行が)見えやすい場所

にすればいいのです。