介護にコミットする方法は5つ。家族間の役割分担を書いてみる
日経DUAL編集部 介護は40代、50代といった仕事で脂の乗った人たちに突然降りかかる問題です。育児と違って情報があまりなく、予測も立てられません。そこで介護に直面したときに戸惑わないよう、何をすべきか具体的に考えておくのがこの実践ワークです。まず父母、義父母などの年齢や健康状態を書き出し、そのなかの誰かに介護が必要になったことを想定して、介護を担う家族メンバーとそれぞれの役割を考えていきます。
羽生編集長(以下、羽生) 早速書いてみます。あれ? 書こうとすると実は親の年齢もおぼつかなかったりしますね(汗)。離れていると健康状態も意外ときちんと把握できていないかも……。出だしからいきなりフリーズしちゃいました(苦笑)。藤井発行人はこうやって自身と家族のことを書き出すのは初めてですか?
藤井発行人(以下、藤井) そうですね。うちは両親が鹿児島に住んでいますが、母親が狭心症を患っていて要支援認定されています。姉も私も近くに住んでいないので、ヘルパーさんにお願いしながら、主に父が世話しています。母の場合を書いてみますね。
── 書籍で介護の章を監修してもらったダイバーシティ・コンサルタントの渥美由喜さんによると、介護にコミットする方法は5つあって、頭字をとって「てじかあこ」と呼びます。
◆ て=手を動かす、じ=時間を使う、か=金を使う、あ=頭を使う、こ=心を動かす ◆
これは貢献度順になっていて、貢献度が一番の「て」の人が介護のリーダー。家族会議での発言権も持つことになります。介護に関わる家族メンバーそれぞれの欄に、これら5つのうち3つを書いてください。一人一役ではなく、二役も三役も考えてみてくださいね。
羽生 まずは自分がどうコミットできるか、ですよね。うーん……やっぱり「か(金)」?(笑)。いやいや、ちゃんと「て(手)」もやりますよ。うちの場合は兄が医療関係のプロなので、私の意識に「お兄ちゃん任せ」な感覚があったことに気が付かされます。
でもこうやって考えてみると、もし父の介護をすることになった場合、本人へのサポートはもちろん、残される母のことも家族で支えなければいけないことも浮かび上がります。例えば、父が認知症になったときと、母が認知症になったときとでは、状況も違ってくるなぁ……。大変さがまったく違いそうで怖い。
藤井 私は「じ(時間)」、「か(金)」、「あ(頭)」ですね。というのも、母の症状は今は安定していますが、最初は診断が定まらず治療薬が合わなくて、本人が苦しい思いをしながら半年くらい過ごしていたんですね。私はずっと医療記者をやってきたので、母の症状をよく聞いて、どうも診断が違うのではないかということに気づき、同級生の医者にも確かめたりしたんです。母に「この症状を正確にお医者さんに言うようにしてみて」と伝えたら、治療薬が変わりそれ以降は症状が落ち着きました。
羽生 藤井さん、それはまさに「あ(頭)」ですね。「て(手)」は貢献度でいうと一番大きいけれど、たとえば“食事や身体のお世話”を必ずしもやるべき、ということではないのですよね?
── はい、そのとおりです。「お世話をぜんぶ自分でやらねば」と背負うのは危険です。自分ができることをやるということ、そして家族全員がコミットすることが大切。介護ってずいぶん上の世代の話だとどこかで思っていますが、いざ一つ一つ書き込んでみると、みなさんも「当事者になるんだ」ということに初めて気が付かれると思います。
藤井 「て(手)」の例として「病院や施設への対応」というのがありますが、地域の包括支援センターに連絡してサポートの段取りをするというのが、老老介護ではなかなか進まないんですよ。うちでも父は最初は自力でやろうと頑張っていたのですが、そのうち家の掃除や冷蔵庫の片づけに手が回らない状態になってしまったんですね。これはまずいと思って私たちが「包括支援センターに連絡してね」と段取りをつけたら、ヘルパーの人が週に2、3日来てくれるようになって、介護がすごくスムーズに回り始めました。
── 一人で抱え込まないことが大切ですよね。渥美さんも、「親が元気なうちから地域の人と仲良くなったり、支援センターに出入りして『父がもう80歳を過ぎているのでよろしくお願いします』と頼んでおいたりして、つながりを作っておくべき」と話していました。
羽生 おー、元気なうちから「親をよろしく」と地域に挨拶まわりですか! この活動は盲点でした。
介護期間は「約5年」。親の場合をシミュレーション!
── 次に、ワークでは働き方の部分も考えます。介護が始まる「初期」に仕事のバックアップ体制などを整え、症状が落ち着いてからの「中期」は介護生活のリズムに合ったワークスタイルを再構築。ただ、みとりが近づく「終末期」はできるだけそばにいたいので、まとまった休みを取る際の仕事の段取りをどうするかを考えておく必要があります。
羽生 この「介護における3パターン」の図(P58)は、イメージしやすいですね。介護期間の平均は約5年、というのは知りませんでした! 藤井さんは発行人という仕事柄、分刻みで締め切りがありますよね。編集長を集めて開く会議や決済の承認なども。たとえば藤井さんが介護をする立場になったら、毎週ご実家に帰ることってできそうですか?
藤井 毎週月曜の午前中に休むのだったら、土日とつなげて介護がやりやすいかもしれませんね。不在時の仕事は代役を前もって指名しておき、権限移譲することですね。介護の有無にかかわらず、日ごろからスムーズな業務のやり方や情報の共有化を進めることは、効率化の面で大切だと思っています。成果のイメージをなるべく早く共有し、「今回私たちがつくりたいもの、やりたい業務はこれ」という方向性を示すのが、何よりの業務改革になると。
羽生 藤井さんは『日経ウーマン』や『日経ヘルス』など、女性が大半のチームのまとめ役をされていますので、子育て中の社員への対応はプロフェッショナル。「イクボス」として意識していることを聞かせてください。
藤井 子育て中かそうでないかを意識したことはあまりないですが、基本的には申し出への承認や相談事は「すぐに戻す」を実践しています。
羽生 そういえば、メールの返信がいつも早い!
藤井 家に帰ったら子育てや家事が待つ社員は時間に制限がある、よって時間のバリューが高いと理解し、相手を待たせないようにということを心がけています。媒体の編集長をしていたころは、夕方の会議をなくし、月曜と金曜も会議を入れないようにしました。部員の代休が消化できずにたまっていくので、3連休を取りやすいようにしたんです。一定の成果はありましたよ。
── 羽生編集長はいかがでしょうか。
羽生 DUAL編集部はみんなが育児との両立をしている、いわゆる“制約社員”で、細切れ時間で働くということに対してお互い分かり合えているところがありますよね。家族の病気など突発的なことも日々発生するので、仕事の成果は毎週、毎月で見るのではなく、1年を通してトータルで考えることも心がけています。
その上で、仕事のアサインをするときは能力や経験などで慣習的、機械的に決めないようにしています。能力順に割り振ってしまうと、ワークとライフの両立が実現できなくなるメンバーもいるからです。大きな仕事も、初めてチャレンジする人に担当してもらって勝負をかけたりするのですが、結果的に良い方向に回ったりするんです。「ラインの上から順に仕事を任せる」と固定化するのは、あまりよくない。
── 単純に仕事を割り振っていくのではなく、「この仕事によって部下の能力を高められるか」まで考えているのがイクボス、と書籍にもありましたね。
(文/谷口絵美 写真/花井智子)