自分なりの笑っているパパ像を

── 産後の様々な問題を解消していくには、どうすればいいのでしょうか?

 これはもう、一朝一夕では変わらないものです。NPOである私たちは、基本的には社会の気運を高めていくことが仕事ですので、国・自治体、あるいは企業やメディアのみなさんと連携していくことが必要だと思っています。イクメンやイクボスがどう定着していくかは、それぞれの家庭や職場での努力や取り組み次第でしょう。そのためのヒントとなる情報を僕らはセミナーや書籍などで伝えていくということを続けていかないといけませんよね。

 とはいえ、理想のパパ像というものはあるのかというと、僕はないと思っています。逆に、「理想はあまり持たないほうがいい」と伝えています。理想のパパ像なんて掲げてしまうと、それが「スーパーイクメン像」となってしまって、みんなでそこに向かおうとしてしまったり、逆にそうなれないことで悩んでしまうのです。子育て家庭の状況はそれぞれ違うので、それぞれのやり方で楽しむしかないんです。

 セミナーが終わったあとに、よく「安藤さんみたいに笑っているパパになりたい」と言う新米パパがいるのですが、「いやいや、僕と同じ人生をあなたは送れないじゃん」っていう話ですよね。人はその人の人生しか歩めないんですから、自分なりの身の丈の「笑っているパパ」を創り上げていってほしいと思います。

今ある危機に気づくことが大事

── 自分なりの笑っているパパ像を創っていく、ですか。

 そのためには、独りよがりになってはダメです。ステークホルダー(利害関係者)であるママや家族、上司など、自分の周囲の人たちとよく話し合って、お互いにしっかりとした方向性を持ってやっていくべきでしょう。そこをちゃんとやらないと、会社だってうまくいかないでしょ、という話です。事業戦略もないままにみんなが勝手にバラバラなことをやっていたら、うまくいくわけがないじゃないですか。

 話し合わないまま、ただ漫然と毎日の仕事や育児家事に追われ、やがてママがパパを諦めたり、家庭がホームではなくアウェーになってしまったパパを僕は本当にたくさん見てきました。そうなると、子どもにとっても良くないわけです。「今、ここにある危機に早く気づかないと、家庭という会社が倒産しちゃうよ!」って言いたくなるパパがまだまだ多いというのが、僕の感想です。

 ですから、笑っているパパになるために戦略を立てる入口となるポイントとして挙げるなら、“危機感の醸成”ですよね。パパセミナーなどでは、よく、「危機感・快感・価値観」といった流れでお話をさせていただいていますが、人間って、何でも自分事として捉えないと動かない生き物です。子どもが病気になってしまったとか、非行に走ってしまったとか、妻が家出をしてしまったとか、そういうのが分かりやすい例ですよね。そこに行ってしまう前に、つまり犠牲者が出てしまう前に予防をしていかないといけないんです。

 そうなる前に、どういうふうに予防策を講じることができるのかが、とても重要です。何もしないでいると大きな代償を払うことになってしまって、結局、「誰も幸せになれない」という結果になることをパパたちには伝えたいですね。

(取材・文/國尾一樹 写真/小松顕一郎)