子どもを持つがん患者同士がインターネット上で交流することができるコミュニティーサービス「キャンサーペアレンツ~こどもをもつがん患者でつながろう~」。主宰する西口洋平さん(37歳)がステージ4と告知されたがん経験やそのときに感じた孤独や不安から、「似た境遇の人同士が語り合い、前向きになれる場をつくりたい」と、2016年4月に立ち上げた。現在、1000人以上が登録している。

 仕事や子育て、お金のことなど、がんに関わる様々な悩みや現状について対面で情報交換したり、医療従事者とがん患者が本音で語り合ったりするイベントも不定期で展開。東京・大阪でのオフ会に続き、地方での開催を希望する声に応えて今年3月には、名古屋で「キャンサーペアレンツの集い in Nagoya」を開催した。「順風満帆に生活してきて、子どももできてこれからというときにまさか…」「親の命とその向き合い方を子どもが間近で見聞きすることで、自分の命を大切にしてもらえたら」――。ごく普通の子育て家庭に突きつけられた、「がんになる」という現実。悩み苦しみながらも命と向き合い、家族と共に前を向いて生きていく親たちの姿をリポートする。

(上)小さな子を持つがん患者 不安と悲しみの先の希望  ←今回はココ
(下) 西口洋平 ステージ4のがん経験 子に伝えたいこと

 今年3月、名古屋東京海上日動ビルディングを会場に行われた「キャンサーペアレンツの集い in Nagoya」。当日は、家族連れを中心に30人を超える参加者が集まり、自身のがん体験や子どもへの告知、治療費や教育費の工面、入院中の育児や家事など普段なかなか情報交換ができない話題について、時にユーモアを交えながら穏やかに語り合った。

 参加者が患っているのは、乳がんや胆管がん、肺腺がん、さらに希少がん(年間発生数が人口10万人当たり6例未満の悪性腫瘍)に当たる小腸がんなど部位も進行も様々。中には、医師から末期(ステージ4)の宣告を受けたり、複数の部位に転移をしたりと進行した状態の人もいるが、主宰者の西口洋平さんをはじめ、事前にキャンサーペアレンツのサイト上で交流をしている参加者も多く、和やかな雰囲気だ。

 「子どもを持つがん患者の交流会」と知らなければ、一見、子育て世帯を対象とした親子のコミュニケーションセミナーのよう。しかし、会冒頭の自己紹介を聞くと、それぞれが抱える深刻な状況と、「同じ悩みを持つ人同士が交流し情報交換することで、前を向いて病気と闘っていきたい」という共通した深く強い思いが伝わってくる。

参加者全員の顔が見えるようにいすを円形に配置し1人ずつ自己紹介。がんの症状(家族は当事者との関係)や参加したきっかけに加えて、事前に数あるフォトカードの中からインスピレーションで選んだ1枚について、そのセレクト理由を話していく
参加者全員の顔が見えるようにいすを円形に配置し1人ずつ自己紹介。がんの症状(家族は当事者との関係)や参加したきっかけに加えて、事前に数あるフォトカードの中からインスピレーションで選んだ1枚について、そのセレクト理由を話していく

<参加者の自己紹介より> ※コメントを一部抜粋・編集

■ 卵巣がんで今年5月に手術して、抗がん剤治療が終わって少し落ち着いたところ。キャンサーペアレンツを通じて皆さんとメールでやり取りし、同じ境遇の方たちから直接お話を聞きたいと思って参加しました。この写真を選んだのは、親子が仲良く手をつないでいるような写真に見えたから。今、娘と二人暮らしということもあって、娘と手を取り合って生きていきたいなと思いました。(8歳女の子の母)

■ がん種は、肺腺がんです。今日は、妻に誘われて参加しました。(川のせせらぎを写した写真を指差して)僕は釣りが好きなので、この写真を選びました。(4歳女の子、2歳男の子の父)
(妻)普段キャンサーペアレンツで交流しているのは私がメインで、交流する中で不安を昇華したり、希望や前に向く力をもらったりしていることがとても多い。今日は夫も連れてきて、それを味わってもらえたらと思いました。私が選んだ、人が集まる写真の中心にいるのが、ぐっち(西口洋平)さん。私はその周りで座っている人で、今日何が始まるかどきどきしている姿に共感しました。

■ がん種は、乳がん。今まで治療していても、同じような年代の方とお話しすることがありませんでした。こういう場を借りて皆さんと交流ができたらと思い、参加しました。選んだのは、手と手がしっかりつながっている写真。自分一人で抱えるのではなくて、つらいときには皆さんとつながれたらと思って選びました。(8歳と3歳の男の子の母)

■ 僕は胆管がんで、西口さんと同じ部位。医師から診断されてかなり落ち込んだ中で、自分の“使命”というか、残された時間を前向きに過ごしたいという西口さんの記事に共感して、今回直接パワーをいただきたいと思い参加しました。(選んだ写真の)砂漠って、マイナスのイメージもあるけれど、長い時間をかけてできた自然の美しさみたいなものがあります。そういう意味でがんは絶望だけれど、そんな中でもこれからの人生一日一日を大切に生きていきたいという思いで選びました。(9歳女の子、7歳男の子、5歳女の子の父)

■ 直腸がんから、肝臓と肺に転移しています。現在、ステージ4。一人でいると、どんどん自分の中に入ってしまうので、ぜひ皆さんとつながりたいと思いました。職場でもプライベートでも、車を運転することが難しくなりました。車に乗ってどこかドライブに行きたいという気分でこの(車の)写真を選びました。(24歳、21歳の父)

 “命”という重く深刻なテーマの交流会で、自己紹介と共に選んだ“一枚”に込める思いからは、その人の個性や人間性が透けて見える。一人一人の発言に真剣に耳を傾け、うなずく様子からは、お互いを慈しみ合うようなとても優しい時間が流れていた。