読者や読み聞かせに副産物を求めない

—— パパやママがわが子に読み聞かせをするために気を付けるポイントなどはありますか?

中井 よく聞かれる質問ですが、たくさん本を読むと情緒豊かな子どもになるとか、読み聞かせをたくさんしてあげると子どもの豊かな心を育むといったことがよく言われますけれど、私はそんなことはないと思っています。

 何が言いたいのかと言いますと、読書や読み聞かせに“副産物”を求め過ぎないでほしいということです。本をたくさん読んであげれば確実に情緒豊かな子どもになるのであれば、親の誰もが必死になってたくさん読み聞かせをしてあげたり、たくさんの本を与えたりすることでしょう。でも、現実はそうではありませんからね。

 しかも、本を全く読まないで育つ子どもなんて、ほとんどいません。だから、周りの大人が何とかたくさん本を読ませようとか、なるべく読み聞かせをしてあげようと必死になり過ぎる必要はないと思います。

 子どもが面白いと思うから絵本を読むとか、読み聞かせをしてあげようということだけでいいのではないでしょうか。目の前に絵本があるからページを開く。そこで、かつて私がそうだったように、1分でも早く寝かしつけたいという一心で読むだけでもいいじゃないって思っています。

親子で素晴らしい時間を共有することが大切

 親の皆さんは「やはり読み聞かせって子どもの成長にとってすごく大事ですよね!」などと言うのですが、親子の間に本を置いて、本当の意味での温かい時間をどれだけ持つことができるのかということが大事なんだと思います。

 そう考えると、どれだけたくさんの本を読んだのかということは、あまり関係ありません。私が長女が5歳のときに出会った絵本『つりばしゆらゆら』を読み聞かせして一緒に涙しましたが、そんな長女が特別、情緒豊かに育ったのかというと、そうでもありませんから。

 ただ、母親である私にとってあのとき、布団のなかに入りながら2人で絵本を開いて一緒に涙したという時間そのものが、とてつもなく大きな宝物になっているんです。絵本を読み聞かせしたかどうかではなく、そんな時間を過ごすことができたそのことが、本当に素晴らしいと思えるのです。

 一度でもいいから、そういった経験ができるかできないかで、その後の子育てや自分の人生というのは大きく変わってくるのかもしれないですね。何かの絵本をきっかけにして、親子で素晴らしいと思える時間を共有できたのであれば、それだけでステキなことなんじゃないかと思っています。

—— 宝物であると思えるような、親子での絵本を通した共有体験ということですね。

中井 ただ、今の話は結果的にそうなっただけであって、つくろうと思ってやったわけではありません。しかも、そういう時間をつくるためには何でもいいと思います。一緒にキャッチボールをするとか、親子でどこかに出かけるということでもいいでしょう。何も絵本に限ったことではないと思います。

 とはいえ、読み聞かせというのは手軽にできることですよね。1日の最後の寝る前に、ちょこっと絵本を広げるというのは、仕事で忙しいママでもパパでもそんなに難しいことではないと思います。だから、できる範囲で読み聞かせをしてあげるといいのではないでしょうか。