保育園や小学校で19年間、これまで1250回もボランティアでの読み聞かせ活動をしてきた女優・エッセイストの中井貴惠さん。読みきかせの会を開始したきっかけは一冊の絵本だったということや、19年間も活動を続けてきた理由、その間の出来事などについて、2本の記事でお伝えしてきました。最終回となるこの記事では、中井さんが考える絵本や読み聞かせの魅力と、中井さんの特におすすめの絵本3冊をご紹介します。

(上) 中井貴惠、読み聞かせ活動19年 1冊の本きっかけ
(中) 電話の絵本も戦争の絵本も、19年で解釈が変わった

絵本を通じて心を動かしてもらいたい

—— 子どもはもちろんのこと、大人の心も動かす絵本や読み聞かせの魅力とは、中井さんにとってどういったものだと思いますか?

中井貴惠さん(以下、敬称略) それは、人それぞれであって何でもいいと思うんですよ。例えば、学校の先生は、読書月間だとか読書週間などと決めて、その間に何冊読みなさいなどと言うんですけれど、本を読むのが嫌いな子どもっていっぱいいるんですね。どうしても学校の先生は本が好きな子どもはイイ子で、本が嫌いな子はダメな子だとレッテルを貼ってしまいがちです。でも、どんなに読書が嫌いな子でも、読み聞かせをしてあげると、お話を聞くのは大好きだっていう子どももいるかもしれない。だったら、自分で読まなくてもいいんじゃないかと思うんです。お話を聞くのが大好きなら、それでもいいのではないかと思います。

 自分で本を読まない子はダメだってレッテルを絶対に貼ってほしくないんですよね。だから、小学校などで公演するときは、先生たちの前で「本を読むの嫌いな人いる?」ってわざと聞くんです。すると、最初は数人が恐る恐る手を挙げるんですけれど、「え? 本当? これしかいないの!?」って言うと、ババっとたくさん手が挙がる。

 やっぱり、読書が嫌いだと思っている子どもっているんです。でも、先生は読書は学力をつける基礎になるものだから何とか読ませようとする。算数嫌いな子がいるように、嫌いなものは嫌いなんだからしょうがないと私は思うんです。

 でも、読みきかせの会であれば、文字を読まなくてもいい。私の朗読でただお話を聞いて、そこで何か心のなかで感じてくれたのなら、それだけでうれしいと思っています。それは、親がわが子に読み聞かせするときでも同じだと思います。絵本を読んであげることで、何かにつながるかもしれない。ただ、感動して涙を流すことでもいいですし、面白いとケラケラ笑うだけでもいい。おかしいなあとか、楽しいなあだけでもいいし。何でもいいのですが、とにかく、絵本を通して心を動かしてもらいたいなあって思っています。

中井貴惠(なかいきえ) 女優/エッセイスト 1978年、早稲田大学在学中に映画『女王蜂』(監督:市川崑)でデビューし、数々の新人賞を受賞。1982年、映画『制覇』で日本アカデミー賞助演女優賞受賞。1987年に結婚。米国、札幌と移り住み、現在は東京在住。2人の娘を育てた経験などのエッセイやコラムなどの執筆活動も行う。1998年、「大人と子供のための読みきかせの会」結成。仕掛けたっぷりの大型絵本と生演奏を加えた独特の読み聞かせが人気を博し、幼稚園や保育園、小学校などで行われるボランティア公演は既に1250回以上。子どもはもちろんのこと、大人も絵本の話の世界に引き込んでいる。7月1日には、一般向けの自主公演「大人も子供も絵本の世界へようこそ2017 中井貴惠 with 大人と子供のための読みきかせの会」が品川区の「スクエア荏原 ひらつかホール」にて開催される。