園長の加藤積一さんの依頼で、アートディレクターの佐藤可士和さんと建築家の手塚貴晴さんがデザインなどを手掛けたふじようちえん。豊かな自然と共生した、園全体が遊具のようにユニークな園舎で注目を集め、“世界で最も楽しい幼稚園”ともよく言われるが、その基軸となる思いは、一貫して「子どもが育つための環境をつくる。子どもがもっている自ら育つ力を充分に発揮していく」こと。子どもたちの生きる力を引き出す、日常の中のさりげない仕掛けの数々とは?

楕円園舎の中心にいつも子どもを

 「うちは土と木しかないんです。それでも大丈夫ですか?」

 楕円形の広々とした園舎が話題となり、メディアでもたびたび取り上げられてきた東京・立川市にある「ふじようちえん」。日本建築家協会賞をはじめ、数々のデザイン関連の賞を受賞している。園長の加藤積一さんが、共にこの園舎をデザインしたアートディレクターの佐藤可士和さんと建築家の手塚貴晴さんを前に言った一言からこの園づくりは始まった。

 古くなった園舎の改築を検討していた加藤園長が、「それならいい人がいる!」と人づてに紹介されたとき、建築家ではない佐藤さんに、何を頼めばいいのか最初は疑問だったという。しかし、子どもの育ちの中心に幼稚園を位置付けたいという加藤園長の思いと、園舎自体を遊具と考えようという佐藤さんはすぐに意気投合。その佐藤さんからの紹介で、建築家の手塚さんとの縁ができたという。

 前述の加藤園長の一言から、手塚さんはこの園の歴史を見つめてきた巨木を残すため、楕円のデザインを思いついた。

円形の屋上は子どもたちの第二の園庭。突き出した大木も子どもたちが登って遊べるように頑丈な網が組んである
円形の屋上は子どもたちの第二の園庭。突き出した大木も子どもたちが登って遊べるように頑丈な網が組んである

 独特な園舎が有名になってしまったが、園づくりを進めてきた3人の思いは同じだった。

 「子どもが育つための環境をつくる。それには、本来子どもたちがもっている“自ら育つ力”を十分に発揮させることが大切!」

 「幼稚園経営は家業だったものの、私は園長になる前にサラリーマンなどいくつかの仕事を経験しています。バブルの時代も経験し、バブルの崩壊も見てきました。ものすごい高級車を乗り回していた人々が、ある日全く異なる姿になっていました。こんなにも人を変えてしまい、ダメにしてしまうものは何なのか考え、それが『見栄』だということに気づきました。手塚先生が、お会いしたときに『私たちでいいんですか? 立派なものはできませんよ』とおっしゃったのを聞いて、この人にお願いしたい!と強く思ったんです」

 「子どもたちには見栄は木っ端みじんになり通用しません。子どもたちには素で付き合わないと相手にしてもらえないんです。私は子どもが育つことをお伝えし、その思いをお2人と共有できました。可士和さんは『状況をデザインします』と言い、可士和さんの思いを受け継いで手塚先生が建物としてのデザインに落として込んでいったのです」

パラパラと雨が降っていたこの日。雨の間を縫って子どもたちがあちらこちらから外に駆け出してくる
パラパラと雨が降っていたこの日。雨の間を縫って子どもたちがあちらこちらから外に駆け出してくる