小さな仕掛けから育てる子どもたちの生きる力

 室内の照明には、一つ一つ紐がついており、引っ張るとその周辺だけが明るくなる。暗かったら、子どもが自ら引っ張って自分に必要なところだけつける。そして消す。ムダに全体を均一に明るくすることはしない。

 外の水道には、受け台がない。水が足元に落ちてきてぬれることに気づくと、水を出しっぱなしにしたり、必要以上に出し過ぎたりすることもなく、自分で調節するようになるからだ。

 軒先には雨どいがあり、雨が降れば下に流れてくるようになっている。伝ってくる雨を子どもたちは手を伸ばして触り、ぬれるからと袖をまくる。そんな一連の動作も、つい大人が声をかけてしまったり、雨にぬれないようにと避けてしまったりしてばかりいると、自然には身に付きにくい。

 上履きはなく、室内ははだし。足のつま先で地面をつかむ力が強くなる。唯一スリッパがあるトイレには、スリッパの形のテンプレートが床についているが、それがあることで「並べなさい」と言われなくても子どもは自然と形にスリッパを乗せたくなる心理をうまく利用したもの。繰り返していくうちに、テンプレートのない所や家でも靴をそろえる習慣がつくようにだ。

 子どもたちが縦横無尽に走り回る中庭には、あえて小さな凸凹が作ってある。

 「つまずいてよろけたり、転んだりを繰り返す中で、バランスを上手に取れるようになります。最近は、どこでも便利でバリアフリーの社会になり過ぎていますよね。園舎の屋上も1周180mあるのですが、朝から30周も走ったという子がいるほど、子どもたちは距離なんて気にせず喜んでぐるぐる走り回ります。ある大学院生がこの園の子どもたちを調査したところ、1日に普通の同年代の子どもの3倍歩いていることが分かったんです。『育ち』とは、自分で体験することで学んで身につけていくことだと思っています」

 軒先には、大根やトウモロコシなどがつるされ、のどかな光景にほっこりした。

トウモロコシがつるされる英語クラスの軒先
トウモロコシがつるされる英語クラスの軒先

650人の園が取り組むモンテッソーリ教育

 ふじようちえんは、昭和46年に開園した歴史のある園だ。モンテッソーリ教育も約45年前から取り入れ、一人一人の子どもたちの育ちを大事にし、縦割り保育や言語教育の中で英語も取り入れてきた。

 「遠くから通いたいと言ってくださる方もいますが、私たちはあくまで地元に密着した幼稚園であるべきだと思っています。地域のため、子どもたちのために何ができるかを常に考え、実行していきたいのです。

 私たちは常に子どもを中心に考えていきたい。そのための地域、家庭との関わりだと思っています。“子どもよし、家庭よし、先生よし”を幼稚園が目指していけば、“社会もよし”につながると信じています。幼稚園も社会の歯車の一つとして、生きていかないと置いてけぼりになってしまうと思って、一生懸命にやっています」

と加藤園長は、幼稚園にかける思いを語ってくれた。

外国人の先生も英語の授業だけでなく、常に園内で活動している。スタッフ全員で子どもたちを見守っている様子が分かる
外国人の先生も英語の授業だけでなく、常に園内で活動している。スタッフ全員で子どもたちを見守っている様子が分かる

 600人を超える大きな園で、一人一人の育ちを大事にするモンテッソーリ教育は難しいのではないかとあえて聞いてみた。

 「ほとんどのクラスは2人で担当しています。担任はモンテッソーリ教師の資格を取得しているか、現在勉強中です。モンテッソーリ教育のベースをしっかり学び、そのうえで子どもたちの成長や状況に応じて、何に興味があるかをつかみ、そのときに適した環境や教具を準備することを大事にしています。そして日々の生活や園内の様々な仕掛けの中から、自分で気づき、自立心が育つことを重視しているのです」

子どもたちの成長や状況に応じたモンテッソーリの教具や環境を準備
子どもたちの成長や状況に応じたモンテッソーリの教具や環境を準備

 前述の園内の様々な仕掛けは、こうしたモンテッソーリの「子どもたちが自分で気づき、自分でできるようになることを大人は手伝う」という考え方にも通じているものだということがしっくり腑に落ちてくる。