教育社会学者の舞田先生が統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。第46回では子どものころの体験が、大人になったときの収入にどんな影響を及ぼすかを取り上げます。子どもと過ごす時間が限られるDUALファミリーにとって、子どもにどんな体験をさせるかは気になるところ。夏休みの過ごし方を考える参考にもなりそうです。

 

大人に子ども期を振り返ってもらう回顧法の調査を見てみます

 こんにちは。教育社会学者の舞田敏彦です。「成功している人は、どんな子ども期を過ごしたか?」。こんな特集を雑誌でよく見かけます。子育て中の皆さんは関心がおありでしょうし、「こういう教育をしたら、こういう人間になる」とは、教育学の観点からしても興味深いテーマです。

 この手の主題に接近する場合、長期にわたる追跡調査をするのが望ましいのですが、費用や手間の点でそれはなかなか難しい。そこで、大人の対象者に子ども期を振り返ってもらう回顧法がよく用いられます。

 子どものころの記憶なんてあやふやな人が多いので、科学的でないという批判は免れませんが、全く無駄というわけではありません。

 最近公表された公的機関の調査資料として、国立青少年教育振興機構の『読書活動が及ぼす効果に関する調査』というのがあります(2013年2月公表)。成人5000人ほどに子ども期を振り返ってもらい、現在の地位や生活状況との関連を探る、という設計です。

DUALパパ世代を収入で3群に分けて調べてみる

 この調査の個票データを使って、冒頭の問いにアプローチできます。私は、30~40代男性の対象者を年収によって分かち、子ども期の様相を比較してみました。年収が成功の尺度になるとは限りませんが、ひとまず常識的な見方をとりましょう。年齢(世代)と性別の影響を除くため、分析対象を30~40代の男性に絞ります。子育ての最中のパパ年代です。

 30~40代男性の年収分布をみたところ、[1]300万未満、[2]300万以上750万未満、[3]750万以上、の3つの群に分けるのがよいと考えました。サンプル数は順に264人、604人、140人です。

 調査票をみると、子ども期をいくつかのステージに分けて、「**をどれくらいしましたか?」と尋ねています。ここでは、小学校低学年(1~3年生)のステージに注目しましょう。就学前の幼児期は記憶が定かでない危険が高く、高学年以降になると塾通いなどの影響が出てくるためです。

 さて、3つの年収グループの間で、小学校低学年(児童期前期)の過ごし方に違いがみられるか。この調査は、子ども期の読書活動いかんが成人後の人生に及ぼす影響を明らかにすることを狙っていますので、まずはこの点をみてみましょう。

「マンガ以外の本を読んだ」体験で普通とリッチに大きな差が!

 表1は、7項目の読書活動を小学校低学年のときに「何度もした」と答えた者の割合です。言い回しがよくないですが、年収300万未満をプア、300万以上750万未満を普通、750万以上をリッチということにします。

 赤字は3つの群で最も高い数値ですが、項目によって違いますね。昔話、絵本、マンガはプアで最も高く、それ以外はリッチの経験頻度が最も高くなっています。

 4番目の「本を読んだこと(マンガ以外)」は、普通とリッチの段差が大きいですね。読書が高い教育達成につながり、高給が得られる職業に就くことができた。単純に考えると、こういう経路が想起されます。

 図書館の利用経験もリッチで最も多いようですが、その次はプアの率が高くなっています。私もよく使ったなあ。お小遣いが少なかったので。本を買うお金なら別枠でいくらでも出してくれる親御さんが多いと聞きますが、私はそうじゃなかった。

 昔の図書館はカードなんですよね。借りた人の名前が書かれたカードが奥付に挟まっていて、後の人に見られちゃうアレです。私は年齢にそぐわない(変な)本ばかり借りていたので、名前を記録されるのはちょっと恥ずかしかった…。

 それはさておき、読書は成人後の成功可能性と結びついているかもしれません。勉強ができるようになるとかいう、せせこましいことではなく、物事の本質が分かるようになりますからね。法律でも、「読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものである」と言われています(子どもの読書活動推進に関する法律第2条)。