すべての人がハッピーになるプロジェクト
最後にスピーチをした日本サッカー協会会長の田嶋幸三さんは、こう語った。
「よくビジネスの世界ではWin-Winといった言葉を使いますが、こころのプロジェクトは関わる児童、夢先生、学校の先生、自治体の方、協賛してくださる企業の方、すべての人たちがWinどころかハッピーになれる、本当に類いまれなるプロジェクトであると思っています」
なぜ、JFAこころのプロジェクトがこの10年でここまで大きな事業として発展してきたのか。その理由は、田嶋会長のこの一言に集約されているのかもしれない。
同プロジェクトの運営資金の大部分は、夢の教室の実施を希望する自治体の予算で賄われている。そのために全国の首長と教育長に丁寧に手紙を送り、賛同してもらえる自治体を増やしてきた。同プロジェクトの発展に尽力してきた手嶋さんは、こう語る。
「1人でも多くの子どもたちにこの夢の教室を届けたいということで、教育委員会をはじめとする自治体の方々を巻き込んでやってきました。予算を出していただくということは、税金を投入するということですから、それだけのクオリティーがある授業でなければなりません。それだけに、中途半端なことは絶対にできない。永続的にやっていかないといけません」
ある日、川淵キャプテンが、手嶋さんにこう言ったという。
「こころのプロジェクトをやめるときは、日本サッカー協会がなくなるときだ」
手嶋さんは、その言葉を今でも忘れない。
「裏を返せば、日本サッカー協会という組織がある限り、このプロジェクトは続けていくという、組織としての覚悟ですよね。覚悟とともに、“熱き心”がなければ続けられません。日本サッカー協会の本来の使命はサッカーの普及・育成・強化・発展ですが、それと同等の大きな柱のひとつになっています」(手嶋さん)
同プロジェクトの評判を聞きつけ、夢の教室の実施を希望する自治体は増え続けているという。スタートしてから10年。日本サッカー協会が“本気で”取り組む「JFAこころのプロジェクト」は、今後も事業の裾野を広げていくことになりそうだ。
(取材・文/國尾一樹)