「夢を語ることは、恥ずかしいことではない。夢が違うものに変わったということも、恥ずかしいことではないと思う。みんなの前で夢を発表すると、その夢のために手伝ってくれる人が出てくるかもしれない。テニスのプロ選手になりたいと言えば、協力しようとしてくれる人も出てくるかもしれない。夢を語ったら、周りに協力してくれる人が増えるということだね」

 「もちろん、ヒデちゃんも、1人だけの力で日本代表になれたわけじゃないから。いろんな人が協力してくれたんだね。チームメートもそうだし、監督やコーチ、マッサージをしてくれるトレーナーの人とか、お医者さん。みんなが協力してくれたから、日本代表に入って世界選手権やオリンピックに出場したいという夢に近づいていけた」

 「1人の力だけでは何もできないし、夢は遠いままだったかもしれない。でも、ヒデちゃんは『日本代表になりたいんだ』『オリンピックに行きたいんだ』『ハンドボール界を変えたいんだ』という夢を恥ずかしがらないで、周りにバンバン言った。そうすると、『そういう夢持ってたんか。よし、オレも協力するで!』と言ってくれる人がたくさん現れた。夢を語って悪いことはないから。分かるかな? 夢を語れる人、どうぞ!」

 そう言いつつ、永島さんは、ちょっと引っ込み思案ながらもしっかりとした夢を書いていた男の子と目を合わせた。目の合った男の子が、静かに手を挙げて前に出て、少しはにかみながら発表をした。

 「ライフル射撃の選手になって、金メダルを取ってみたいです!」

 満面に笑みを浮かべて、永島さんは言う。「おお、そうか、頑張れよ! はい、拍手!」。ひときわ、大きな拍手が湧き起こった。

本気で情熱を持っていれば夢は必ず近づいてくる

 最後に、夢先生が自身のこれからの夢を語りつつ、まとめの言葉として熱いメッセージを送る。

 「ヒデちゃんは今、自分で会社を作って社長をやっています。世界で活躍できる会社にしたいというのが、ヒデちゃんの今の夢です。これまで培ってきたこと、頑張ってきたことが、ハンドボールとは違う世界だけれども生かせている。必ず、何にでも共通点があるから無駄になることは絶対にない」

 「今、みんなが書いてくれたその夢に対して本気で情熱を持っていたら、必ず夢は近づいてきます。ハンドボールでは、みんなが本気と情熱を理解してくれたから、手伝ってくれた。でも、本気でもなく情熱もなかったら、誰にも夢は理解してもらえない」

 「だから、みんなが書いてくれた夢。まずは、本気でやる。情熱を持ってやる。それで夢がかなわなかったとしても……、ヒデちゃんみたいにオリンピック出場という夢がかなわなかったとしても、夢に向かって本気でやってきたことは、この先もずっと続くし、無駄にはならない。みんなも夢も持って、いっぱいワクワクして、いろんなことに本気で取り組んでいってください。学校の仲間を大切にして頑張ってください!」

 すべての子どもたちの真剣なまなざしが、今日の夢先生、ヒデちゃんに注がれていた。

夢の教室を終えて、永島さんが考えていること

 夢の教室は、これで終わりではない。後日、子どもたちは夢シートに「夢先生の話で印象に残った言葉」と「夢先生へのメッセージ」を書く。そして、メッセージを受け取った夢先生から、一人ひとりと向き合って書かれた返信が届く。

 多くの子どもたちにとって、夢先生からの返信は宝物になる。なかには、壁に貼り付けたりして、あのとき、感じたことを忘れずに日々、成長していこうとする子どもも少なくないという。

 メッセージのやり取りを終えた永島さんは、こう言う。

 「現役のとき、100人くらいにサインを求められることも珍しくなかった。サイン1枚書くのは100分の1という感覚ですが、夢シートに書くメッセージは1分の1という感覚です。自分の思いを伝えるために、しっかり一つひとつ読ませていただく。僕は文章がヘタクソなので(笑)、どこまで伝わっているのか分からないですが、とにかく時間をかけて返信しています」

 今回の夢の教室については、「クラスの雰囲気がすごく明るくてノリも良かったので、スムーズにいったと思います。私は、子どもたちに本気になってもらいたい。何ごとでも、本気になれば楽しいこともあれば、悔しいこともある。それが、今後の財産になりますから。だから、子どもたちの“本気のスイッチ”を探してあげたいと思っています」と言う。子どもたちの夢シートを見る限り、そのメッセージは十分、伝わっていただろう。

 永島さんは、会社を経営する多忙な毎日のなかでも、夢先生として2年前から活動している。

 「夢先生は、ずっと続けたいですね。私にとっても気持ちをリセットさせてくれる、とても格別の経験ですから。子どもたちが純粋な目で様々な反応をしてくれる。それを見ていると、自分のなかで原点に戻らせてくれるというか。授業をして思いを伝えているのは夢先生ですが、自分自身がすごく勉強になりますし、何よりも本当に楽しいですね」

 子どもたちと接することで、夢トークをする側の夢先生も何かを学んでいる。子どもたちの前で夢について語ることで、夢先生自身が新たな夢に向かって走り出すことも多いという。

(取材・文/國尾一樹)