「早く大きくなって」

 杏莉も颯太も、いーよー、と言って、好きなものを選んでいる。とてもじゃないが、これから食材を買って、一から作る気にはなれなかった。まだお米も研いでいないのだ。今日は味噌汁だけ作ろうと算段する。

 夫の秀介(しゅうすけ)は、今日は接待ゴルフだと言っていたが、夕飯は食べてくるのだろうか。一応買っておくにこしたことはないと思い、秀介の好きな天丼弁当をカゴに入れる。

 お菓子売り場の前でチョコエッグを手に取り、買ってえ!と駄々をこねる颯太を引っ張って、車に乗り込む。チャイルドシートを嫌がる颯太を無理やり押さえつけるようにしてロックする。颯太がぎゃんぎゃん泣きわめく。まるで虐待をしているような気分になる。

「颯太、じゃんけんしようよ」

 杏莉が言うと、颯太が泣き止んだ。たった1歳差の姉だが、杏莉の存在に多香実はおおいに助けられている。杏莉のほうが母親みたいだ。

 マンションの駐車場に着くと、颯太は眠っていた。思わず舌打ちしたくなる。仕方なく颯太を抱いて、車から降りる。

「ママ、杏莉がもってあげるよ」

 さっきの響子と一真のことを思い出したのか、杏莉が言う。

「ありがとー、杏莉。本当に助かっちゃう。どうもありがとうね」

 心からそう思って言うと、杏莉は、いいってことよ、と、どこで覚えてきたのか大きな声で答え、思わず笑みがもれた。

 エレベーターに乗り込みながら、多香実は「早く大きくなって」と、2人の愛すべき子どもを見ながら切に思う。早く大きくなって、自分のことは自分でできるようになってほしい。毎日のようにそう思うが、ふと、では自分はなんのために、子どもを産んで子育てしているのだろうかと思ったりする。かわいい盛りと言われる今、子育てをまるで楽しめていない自分がいるのだった。