「お昼まで食べさせてもらってごめんね」

 多香実が一真をしずかに揺すって言うと、ふんわあ、と声を出し、目を開けるもすぐに閉じてしまう。多香実は一真を抱いて、玄関に連れていった。そのまま美帆に引き渡す。

「荷物が多いのに抱いていけないわ。ほら、一真起きて。一真!」

 目をこすりながら、一真が首を振ってぐずり出す。

「まったくしょうがないわね。響子、悪いけど荷物を持ってくれる?」

「えー?」

「えー、じゃないの。はい、持って」

 美帆がスーパーのレジ袋を響子に渡す。重たいようと言いつつ、あきらめたのか、そのまま響子がレジ袋を抱える。

「多香実ちゃん、ほんとにどうもありがとう。お昼まで食べさせてもらってごめんね。お礼は今度必ずするから」

「そんなこと気にしないで」

 手を振って多香実は言い、そのままその手を返して「響ちゃん、かーくん、ばいばい」と振った。杏莉が、バイバイ響ちゃん、かーくん、と言い、響ちゃんもバイバイと言った。颯太はすでにリビングに戻っている。テレビでも見ているのだろう。男の子というのは、そっけない。

 ドアを閉めたとたん、外から一真の泣き声が聞こえたが、多香実は唇を引き締めて鍵を閉めた。

「颯太、テレビ見てないでお片付けして! みんな捨てちゃうわよ」

 多香実が声をかけると、颯太は多香実をちらっと見て、「すててもいーよー」と言う。捨てられたら泣いて騒ぐくせに、といつもだったら返すところだが、今日はもうそんな気力は残っていなかった。

 一日中、4人の園児たちの面倒を見ていたのだ。杏莉と響子は女の子だからまだ聞き分けがいいが、颯太と、その1つ下の一真にはほとほと手を焼いた。男児が2人集まるとまったく収拾がつかない。リビングは、泥棒にでも入られたかのような散らかり具合だ。

 多香実は、すべてのおもちゃを機械的におもちゃ箱に突っ込んで、とりあえずリビングにだけ掃除機をかけた。

「買い物に行くよ」

 多香実が言うと、颯太が行きたくなーい、と言う。多香実だって、できれば連れていきたくない。1人で行けたらどんなにいいだろうかと思う。けれど、マンションに幼児2人を置いては出かけられない。

 先日、颯太が寝ている間に、杏莉と買い物に行ったことがあったが、帰ってきたらトイレと洗面所が水浸しで、颯太はほとんど裸状態で、叫ぶように泣いていた。途中で目が覚めてトイレに行き、手を洗おうと蛇口をひねったら勢いよく水が出てしまい、そうなると止め方がわからなくなり、タオルで塞いだらしかった。その後、洗面所でも同じようなことをして、びしょびしょになった服を脱いだはいいが、着替えの服がどこにあるかわからず、母と姉の姿も見あたらず、怖くなって泣いていたのだった。

 2人を車に押し込むようにして、近隣のスーパーに向かう。時間が遅いので、お惣菜が割引になっている。

「今日はお弁当でいっか」