ダイバーシティのためのダイバーシティではうまくいかない理由
入山 ダイバーシティってね、2種類あるんです。個人の能力的なものと組織的なもの。個人の中でのダイバーシティは、「イントラパーソナルダイバーシティ」とも言います。先ほどの日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーをとった、様々な能力を持った人もそうだし、パラレルワールドを行き来する小島さんもそうですね。
組織のダイバーシティは、様々な人が集まっているという意味の多様化ですが、この中にも2種類あります。一つは、様々な能力や経験や考え方を持った人が集まるタスク型。もう一つは、男女の性別だったり、年齢や国籍、障害のあるなしだったり、目に見える属性によるデモグラフィ型に分けられます。これは分析によって明らかになっているんですが、タスク型のダイバーシティは組織にとってプラスになります。なぜかというと、違う知の組み合わせができて、新しいものを発見していける組織だからです。
でも、今の日本に多いのは、デモグラフィ型です。これは組織にとってマイナスなんですね。おじさんばかりの組織に、女性管理職30%を目指せという理由だけで女性を入れると、組織内で対立が起こったりしてかえってマイナス要因が生まれたりする。
なんのためのダイバーシティなのかを考えなくちゃいけないんですね。女性だからというだけで採用するのは、そもそも女性にも失礼な話。様々な価値観や経験がある人という意味での多様性で、人を選んでいくべきだと思います。今は男性のほうが多いから、そこに女性が入れば多様な考え方が入ることで結果として、多様性が生まれるということはあると思います。
小島 「とにかく女性を採ろう」ではなく、多様な価値観や異なる経験の持ち主を増やしたいから、女性を採用するという発想ですね。その多様性の本質を忘れて、見た目上の多様性を求めても、組織にとっても働く人にとっても、プラスにはならない、と。
入山 最悪なのは数字合わせのダイバーシティです。世界で一番イノベーティブと言われるGoogleという会社は、人事のトップの人が、「ダイバーシティのためのダイバーシティをやっているんじゃない、イノベーションのためのダイバーシティをやっているんだ」と言っているんですね。色々な知見を持った人を入れていきたいから、女性も多いし、外国人も障碍者も、LGBTの人もたくさん働いています。
さらに、研修の時点で「バイアスバスティング」ということをやっています。偏見をなくすためのプログラムを徹底しているんです。その結果、組織もよくなる、個人も輝くということなんです。
小島 そうなると、今後、自分をアピールするときに「私は女性だからこういうことができます」じゃなくて、それは生い立ちからなのか、経験からなのか、職業からなのか、そういうことを自分で分かっていることが大切なのかもしれません。
入山 だから自分が誰なのかじゃなくて、どういうことをしたくて、何が楽しくて、ということがはるかに大切なんですね。
(取材・文/関川香織、撮影/花井智子)