イノベーションは、「既存の知」と「向こう側にある知」が出会うこと

小島 そこでよく聞かれるのは、イノベーションという言葉。イノベーティブな人が求められるといった言い方もされますね。従順な組織人であれと言いつつ、個性を生かしてイノベーティブに!なんて、矛盾するようですけど、会社という組織の中では両立が必要になってくる。
 有能な組織人であり、かつイノベーティブな人材であるって、どういうことなんでしょうね

入山 難しいですよね。でも、今求められていることです
 ここでこの4人の女性を見てみましょう。皆さん『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー』を受賞した方々です。(モニターの画像を見ながら)東宝映像本部映像事業部アニメ事業グループ宣伝プロデューサーの弭間(はずま)友子さん(上左)、ロフトワーク・林千晶さん(上中)、未来食堂・小林せかいさん(上右)、FOVE・小島由香さん(下)です。

 この人たちはみんな、イノベーターです。新しいものを生み出し、新しい価値を作り出してきました。そして4人の共通事項が、マルチキャリアであること。多様な経験をしてきたことが、社会にインパクトを与えることになりました。

 例えば、FOVEはVR用ヘッドマウントディスプレー(HMD)を開発している会社ですが、ここのHMDは、視線追跡機能を搭載していて、人の目の動きで操作を行えるんです。イケメンをじっと見つめていると振り返って好きだよとか言ってくれる。これって、単に技術畑だけの知ではできなかったコンテンツでしょう。小島由香さんがマンガの編集をしていた経験を生かして生まれているんです。

 こういう、一見関係ない遠くのものを組み合わせることが新しいものを生む、イノベーションを起こすんです。新しいアイデアは「今ある既存の知」と「向こうにある既存の知」の組み合わせから生まれるのです。

 脳には限界があって、人は目の前にあるものしか見えません。だから、同じところにずっといると、自分の近くにあるものからしか「知」が見えなくなってしまいます。遠くにある「別の知」とどう出会うかが、今の時代には必要なんです。

好きの軸に沿って動くことが大事

小島 その「遠くの知」に出会って、何かが生まれるまでって、やっぱりすごく大変なことですよね。

入山 毎日忙しい中で、色々な人に会いますが、その中から必要な知にたどり着くことは、なかなかできなません。できたとしても、そこに行き着くまでにはたくさんの失敗をするんです。「新規事業部」って、たいがいそうじゃないですか? それでも忍耐強く、新しい知を求めていく人は、どうしたいかということがハッキリしている人です。その根底には好きっていう気持ちがあってこそ。好きだから粘り強く続けられるんですよね。

小島 そうですよね、異業種交流をして人脈が豊富にあったとしてもその中から新しいものを見つけていけるかどうかは、「好き」かどうかだと思うんです。

 私は局アナから始まって今に至るまで、「人に話しかけることが好き」ということだけでやってきました。どんな言葉を選んで、どんなしゃべり方をしたら伝わるか、考えるのはもうほとんど趣味みたいなものです。書く仕事も「しゃべるように書いたらいい」と言われて、読む人との対話だと思って書いています。その中で分かったのですけれど、私は対話の中で人が変わるのを見るのが好きなんですね。自分も相手も変わる。生き生きと話している姿を見ると、その人のことを好きになってしまいます。

入山 好きであることって重要ですね。でもね、自分が何が好きなのかわからない、どうやって気づいたらいいのだろうという人もいると思います。そういう人は、人生のライフチャートを作ってみるといいです。

 時間の流れを横軸にして、よかった悪かったをアップダウンの線グラフにしてみる。そうすると、「なんでこの時、山が高かったのか」「どうしてこのときどん底と感じたのか」を考えられて、何が大事かが分かるんです。