“大事な部分”にメス入れる恐怖 女性の苦労を思い知った

―― 絶望の状態から、どのように治療へと気持ちを切り替えたんでしょうか。

ユカイ ナーバスな話題で気軽に相談できる人もいないし、ネットの情報を頼りに男性不妊について調べてみたんだ。ネットだからもちろん事実も嘘も混ざっていると思うけど、自分なりに事実と向き合うためにも、とにかく色々な知識を仕入れたよ。驚いたのは、無精子症の人は100人に1人もいるということ。自分と同じような人がたくさんいるんだと心強くなった反面、確率とか数値とかを見てもピンとこず「本当に子どもを授かることができるのだろうか」と不安にもなった。

 後日、病院で詳しい検査を受けてみると、どうやら俺は、睾丸で精子は作られているけど、精管に問題があって精子が精液に届かない「閉塞性無精子症」であると推測された。その原因となる可能性の一つとして、鼠径ヘルニア(脱腸)の手術があると言われているのだけど、思い返せば俺も子どものころに鼠径ヘルニアの手術を受けているんだよね。

 診断を確定させるには、睾丸を切り、精巣から組織を取り出して精子を見つけ出すという検査が必要なんだけど、もう、それを聞いただけで恐怖なわけ。

 それに、勇気を出して検査を受けたとしても、肝心な精子がいるかどうかは分からないし、運良くいい状態で見つかっても、その後に「体外受精」という次のステップが待ち受けている。俺がタネナシだったばっかりに、妻の体に負担をかけるわけだから、申し訳ない気持ちでいっぱいだよね。

―― 期間も結果も不確定要素が多い中、男性不妊の手術を受け、さらに体外受精へと進んでいく……まさに、手探りの日々ですね。

ユカイ 男性不妊の手術をし、そのうえで体外受精(顕微授精)をするわけだから、費用も余計にかかるし、治療も2段階なら、費用も心身の負担も2段階。色々な意味で厳しい状況だった。

―― 男性不妊の手術を受けてみていかがでしたか?

ユカイ 蓋を開けてみたら、俺の場合は、男の大事な部分にメスを入れるっていう恐怖心を乗り越えるくらいで、手術自体の痛みも少なかったし、ほんの20分くらいで終わっちゃうんですよ。不妊治療全体の大変さに比べると、俺の負担自体は大したことがなかった。

 それに引きかえ女性のほうは、ホルモン誘発剤の注射をしたり、卵子を採取したり、受精胚を子宮に戻す処置も行わなければならないから、俺なんかより妻のほうがよっぽど大変だったと思う。めでたく妊娠したとしても、出産に至るまでには色々と体の変化もあるわけだし、女性がいかに強いかを思い知ったね。やっぱりマザーは偉大だね。