未就学児には、意味のある本より言葉の面白さ、楽しさに触れさせる

 本を読むペースや好みは一人ひとりで違うので、その子に合わせて選んでいただくのが基本ですが、読んでほしい本はもちろんたくさんあります。

 その中でもまず、未就学の子どもたちには言葉の面白さ、楽しさに触れてもらいたいと思っています。子どものうちは「音」が大事。谷川俊太郎さんの『もこもこもこ』や『おそばおばけ』など。普通の詩だとお母さんもうまく読もうとしてしまいますが、こうした絵本はいろんな読み方ができるところが面白いところだと思います。

 日本で昔から好まれる絵本にはオノマトペ(擬声語を意味するフランス語)がある作品が多くあり、『かちかちやま』『さるかにかっせん』や宮沢賢治でも子どもが好むと思います。音の面白さを感じながら親子で読んでみてください。

日常の闇、不条理と向き合い“怖さ”への免疫力を本で付ける

『注文の多い料理店』(作/宮沢 賢治、出版社/岩波書店)
『注文の多い料理店』(作/宮沢 賢治、出版社/岩波書店)

 それとどうしても親御さんは、意味のある本を求めがちですが、文学芸術の不条理と向き合うところが読書では大事だと思っています。ですからなんだろうこれはと思うような、それこそ低学年、中学年から読めるようになる『注文の多い料理店』などは良いと思いますし、未就学児なら『浦島太郎』でもいいと思いますよ。昔はそういう不条理なものが、結構身近にありました。太宰治や高杉晋作は乳母に近所のお寺の曼陀羅絵、地獄絵を見せられて育ったといいますし(笑)。それに昔の家には、昼でも夜でも明るくない場所、“闇”がありました。それが今では白い壁で、どの部屋も明るいというように、闇が身近になくなってきている。すると怖さに対する免疫力が低下してしまうので、もっと人生の闇の部分を幼少期から体験するものがあったほうがいい。本の中だけでも、ちょっと怖いくらいの経験をしておくのが大事だと思うんですね。

低学年は『サンタクロースってほんとにいるの?』を親子で

『サンタクロースってほんとにいるの?』(文/てるおか いつこ、絵/杉浦 範茂、出版社/福音館書店)
『サンタクロースってほんとにいるの?』(文/てるおか いつこ、絵/杉浦 範茂、出版社/福音館書店)

 小学校に入学すると、語彙が増えるようになどと教育的なことを意識されることも多いようですが、そういうことはあまり考えないほうがいいと僕は思っています。

 低学年の子どもには、『サンタクロースってほんとにいるの? 』をお勧めしています。僕も『サンタクロース会議』という演劇を上演しましたが、その内容はサンタクロースはいるのか、どこからくるのか、普段は何をしているのかということを話し合う会議を、子ども参加型で進行するというものです。その芝居を作り上げるうえで調査したところ、サンタクロースを信じる年齢が、日本では年々高くなっている。きょうだいがいない、しかも周りに悪い親戚の子どももいないんですよね、今は。「そんなものいるわけないでしょ」と教えてくれる人がいないんです。中学1年生まで信じているわが子が心配だという方もいましたから。でも、サンタクロースがいるかどうかは、本来は親が教えるべきことではないんです。

 そういう意味では、この本はとても良くできているので、まずは親御さんが読んでみて、色々考えてみてください。そして、親子で読んでみるといいと思います。サンタクロースの存在について真実を教えるかどうかは、親の方針でいいと思いますよ(笑)。