幼稚園の園長先生がくれた『どうぶつ会議』。世界中を旅したいと思うきっかけに

 幼少期で一番思い出に残っているのはエーリヒ・ケストナーの『どうぶつ会議』ですね。幼稚園の卒園のときに園長先生がくれたもので、ずっと大切にしています。ただ今読むと挿し絵はあっても漢字も多いですし、よくこんな難しいものを…と思います。ですが、やはり僕がものを考える原点になっている。

 この本は、第2次世界大戦後まもなく発表されたもので、戦争が終わって数年後に人間たちが国際会議を重ねるなか、一向に成果が出ないことに怒った動物たちが、子どもたちを守るために動物会議を開こうと決心する。ところが会議で動物たちは国境をなくすように要求するのですが、人間は相手にしないんですね。動物たちは会議の文書を粉々にしたり、制服をシミムシに食べさせてしまったりしますが、それでも人間たちが対応しないので、とうとう人間の子どもを隠してしまうわけです。

 初めて読んだころは動物たちが集まるまでの描写などがユーモアが利いていて楽しく、普通に引き込まれていきました。何度も読み返しましたし、世界中を旅したいと思うようになり始めたきっかけの本でもあります。

『どうぶつ会議』

文/エーリヒ・ケストナー
絵/ワルター・トリアー
訳/光吉 夏弥
出版社/岩波書店
第二次世界大戦後、世界平和のために国際会議が開かれるが少しも成果が上がらない。それを見かねた動物たちが、北アフリカの動物会館に集まり、動物会議を開く決心をする。スローガンは「子どもたちのために……」。子どもたちの未来を祈るエーリヒ・ケストナーの絵本として有名。

偉人になろうと思って読んだ伝記シリーズ

 小学校入学後には、『エジソン』『ベートーベン』『野口英世』などの伝記をたくさん読みました。今は漫画で読む伝記シリーズなども多く出ていますが、僕自身は学校の図書室にある児童図書の伝記シリーズは大体すべて読んでしまいましたね。1冊読むのに大体数日でしたでしょうか。僕はたぶん子どものころ、偉人になろうと思っていたので、どういう偉人が良いのか、読みながら想定していたのだと思います(笑)。もちろん文学も好きでしたが、物語のほうが好きということもなく、伝記だからといって、読み方が変わるということはありません。ただ『どうぶつ会議』もそうですが、世界への興味は強くなっていったと思います。

“オリザ”の由来本や『虔十公園林』など宮沢賢治も

 宮沢賢治も低学年のうちに、読み始めました。なにしろオリザという名前自体、『グスコーブドリの伝記』という宮沢賢治の童話に出てきますから、意識しますよね(作中でオリザは「もっとも重要な作物」として出てくる)。ただ僕のころは原作でしか読めなかったので、宮沢賢治の作品はとても難しかったんです。特に『銀河鉄道の夜』などは、今でこそ版権も切れて易しいバージョンも出ていますが、原作は大人になってからでないと理解しきれないのではないかと思うくらいです。

 宮沢賢治の作品の中では、今なら『虔十公園林』が一番好きですね。子どものころは好きだというよりは、もちろん『グスコーブドリの伝記』が印象に残っています。

 子どもが読むなら今の色々なバージョンも良いと思います。

『虔十公園林』

文/宮沢賢治
絵/伊藤亘
出版社/偕成社
大正~昭和期の童話作家、詩人である宮沢賢治の短編童話。死後、発表された作品。周りからいつもばかにされている虔十(けんじゅう)は、杉の苗700本を家の後ろの野原に植えた。小さな杉林はやがて子どもたちの遊び場になり、それが虔十を満足させていく。やがて虔十が死に、村が町になって杉林は残る。博士になり戻ってきた、そこで遊んだ子どもの一人が、周りの風景がすっかり変わった中、今でも残る杉林を見て感動する。