社員全員が自社への誇りを持ち、世界一を目指す!

―― ライスポットの開発で一番苦労したところはどこでしょうか。

土方 電気の力を使ってガスよりもおいしく、加熱するというところが一番難しいところでした。例えば、バーミキュラのお鍋でご飯を炊こうとすると、ガス調理だと6合までおいしく炊けるけれど、通常のIH調理だと4合までしかおいしく炊けないんです。なぜなら、IHは平面加熱でガスは立体加熱だから。なので、電気の力を使いながらもガスと同じように横まで効率的に加熱するようにする技術の開発が一番難しかったですね。

―― 土方さんはトヨタ自動車に勤めていて、実家の会社を継ぐという道を選びました。大手企業の会社員から中小企業の経営者に転身するのは、勇気がいる決断だったと思います。

土方 僕は会社員時代は経理をしていて、今とやっていることが全然違うんですけど、仕事へのスタンスややり方自体は基本的に変わりませんね。

 実家に戻った大きな理由は、今本社がある場所にもともと僕の自宅があったんです。そこで職人さんたちと一緒によくキャッチボールして遊んでもらっていたんですが、昔の職人さんは自分の会社や製品に誇りを持っていて、うちのドビー機という繊維機械を「世界最高の機械だよ」と言っていた。父親もそう言っていて、幼いながらに誇りに思っていたんです。それが中学・高校となって、どんどんみんなが下を向いていく。60人くらいいた社員も1/4程度に減ってしまい、話しかけても挨拶もしてくれないようになっちゃったんですよ。

―― キラキラしていた幼いころの思い出が色褪せていくようで、なんだか切ないですね。

土方 僕は大学を卒業してトヨタ自動車に入社した当初は実家に戻るつもりはなかったんですけど、こういう小さい町工場って今後どうなるんだろうと思ったんです。トヨタ自動車は僕がいなくても世界一。でも、僕にしかできない仕事があるんじゃないかと考えました。うちの会社に入ったとき、一番足りないのは職人のプライドだと思いましたね。

―― プライドを取り戻す取り組みは、一朝一夕ではいきませんよね。具体的にどのようにされたのでしょうか。

土方 私も実家に帰って、まず精密加工の技術を習得して職人になったのですが、職人は「いいものを作ってくれてありがとう」と言ってもらうことでしか楽しみがありません。その楽しみを味わわせてあげないとやってはいけないと思ったんです、自分自身のモチベーションも含めて。だから、自分たちで考えた世界最高の製品を作り、それを世の中に出そうとこれまでやってきた。なので、僕たちは“販売する”というよりも、実際に使ってもらって楽しんでいただくことや、お客様の生活が良くなることを重視しています。

―― 愛知ドビーでトヨタ流を取り入れたことはありますか?

土方 うーん、トヨタ流なのかは分かりませんが、やはり、トヨタ自動車で学んだことは思いの部分が大きい気がします。例えば、僕がまだトヨタ自動車にいるときに、当時の奥田会長が「変わらないことが一番悪い」と言っていました。昔、通っていた極真空手にも同じような「停滞は衰退なり」という言葉があって、要するに「立ち止まると他の人はどんどん進歩するから、結局衰退することになるんだ」と、図らずも僕が所属した2つの組織のトップが同じことを言ったんですよ。そういう意識的な部分は非常に影響を受けています。

 また、トヨタ自動車には素晴らしい協力会社さんがいっぱいあって、その中で、これはあくまで僕が感じたことなのですが、「トヨタ自動車自身が必ず技術のトップであるべきだ」というプライドと責任感をものすごく感じていたんです。自社が一番の技術者でなければいけない。それで協力会社さんを引っ張っていくんだというくらいのプライドを製造に関して持っているというのがあって、僕が今の会社に入ってからも「僕が一番の技術者にならないと誰もついてこない」という気持ちは強かったかもしれないですね。トヨタ自動車で教えてもらったことは、今も全部役に立っていますよ。

―― 様々な苦労や壁があったかと思いますが、振り返ると2006年から転身されて、10年でこれだけ成長しました。

土方 だいぶ変わりました、本当にそうですよ。バーミキュラを開発する前は、社員のモチベーションがなかなかついてこない部分がありました。色々と新規営業をして、仕事をもってきても「できません」と言われ「えー!?」みたいな(笑)、そういうことがよくありました。当時は、社員も18人しかいませんでしたが、今は製造・事務含め230人の仲間が一緒に働いてくれています。

 自分の会社に誇りを持てるようにしたいと思い続けてこれまでやってきたけれど、そういう人がすごく増えてきてくれたという実感がありますね。「バーミキュラを作りたい」と入ってきてくれる人もいるし、コンシェルジュの森本さんのような人も入ってきてくれて、逆に僕たちに刺激をくれて、いい会社になってきたと思います。昔はみんなうちで働くのが恥ずかしい、こそこそと働いているという感じがしたんですけど、4~5年前に職人の管理職が急に制服で家に帰るようになった。「制服を着て帰っちゃだめだよ」といったら、「すいません、着て帰りたいんですよ、僕の誇りなんです」と。スタッフの子が制服に勝手にバーミキュラという刺しゅうを入れたり、ルール的にはだめなんですけど(笑)。うれしいじゃないですか。そういうところが明らかに昔とは違いますね。

吉見将宏

共働き「これだけは!簡単レシピ」を教えてくれた人
吉見将宏さん

調理師専門学校を卒業後、名古屋市内のケーキ屋でパティシエとして修業をした後、洋食店でコック、フレンチレストランでサービスマンとして研鑽を積む。どの家庭からでも、おいしく楽しい食事の時間を過ごしていただくためのサポートをしたいと、バーミキュラに入社を決意。現在は、新しいレシピを日々開発するほか、撮影・調理全般を担当。

(文・構成/加藤京子 写真/岩瀬有奈)