春の恩恵のなか、立ち尽くし、深呼吸をした

 温かな太陽の光が降り注ぎ、ひとつひとつが誇らしげに顔をあげ、祝福されているようだった。ペンキの剥げたベンチも、道に落ちている紙くずも、見慣れた看板も、そこに書かれた文字も、木々も人も何もかもが春の光に照らされて、内側から輝いている気がした。あまりの素晴らしさにわたしは立ち尽くし、何度も深呼吸をした。息をひとつ吸い込むたびに、何もかもが少しずつ解凍されていくようだった。体は体温を取り戻し、意識は熱を帯びて柔らかく、わたしはしばらく春の中で動けなかった。

 光でいっぱいになっていくなかで、この素晴らしいできごとにもし名前をつけるとしたらなんだろうと考えた。そして、恩恵っていうのはこういうことをいうのかもしれないとそう思った。恩恵としか言いようがないな。とうとう春が、やってきたのだ。

 体と心を春の喜びでひたひたにしながら、わたしは生まれ変わる準備をした。

 髪を切り、掃除をし、ヨガをはじめ、エアロビで踊った。体はどんどん柔らかく、なじんでくるようだった。サンキュー、なにもかも……春の到来とともにわたしは再生し、がんばっていくのだ、すべてを乗り切っていくのだ、なーんてばりばりやる気を取りもどすことができたのだった。もちろん、生きていればこれから先も色々なことがあるだろう。でもあのとき感じた春の恩恵は、ずっとわたしのなかにあって、いつでも小さく、たしかに光っている気がする。フレシネを飲みながら、そんなことを思いだしている。

■フレシネのウェブサイトはこちら