歯並びが悪いことは見た目だけでなく、健康にも影響します

 学校で行う歯科健康診断で指摘する歯並びの悪さには、ある程度の基準があります。例えば、上顎前突(じょうがくぜんとつ・いわゆる出っ歯)は、上の歯が7~8mm以上出ていたら要受診のお知らせをするか検討する、といった具合です。健康診断の現場では、デンタルミラーの直径の半分以上がこれに当たります。

 また、先のママのように自分で気付かないのに深刻な不正咬合の一つに「開咬(かいこう・オープンバイト)」があります。これは、奥歯をかんだとき前歯の間が空いてかみ合わさらない状態を指します。開咬では、上下顎前歯に垂直的に6mm以上の空隙があると、要受診を検討します。

 健診の現場では、デンタルミラーのホルダーの太さ以上かどうかによって判断しています。ただしこれはあくまで、スクリーニングするときの一つの基準にすぎません。学校においては、矯正治療の必要性を判断するのではなく、子どもの将来の口の健康、全身の健康にとってどのようなリスクが考えられるかを、学校保健教育の視点から教育し、認識させることを目的にして行っているのです。

 それでは、歯並びの悪さは健康にどのように影響するのでしょうか。大きな6つの項目について説明しましょう。

(1) 虫歯や歯周病になりやすい

歯並びが悪いということは、歯の段差や隙間があるということ。そこに細菌の塊である歯垢(プラーク)がつきやすくなります。また食事中、食べ物や飲み物は通常、唾液によってその場で洗い流されていきますが、歯並びが悪いと唾液の流れが悪くなります。それは、曲がりくねった川で湾曲している部分に汚れがたまるのと似ています。唾液の川がスムーズに流れるためには、デコボコせず真っすぐ並んだよい歯並びであることが必須です。もちろん、でこぼこ部分には歯ブラシが届きにくいということもあります。

(2) 発音が不明瞭になる

きれいに歯並びが整っていると、発音も明瞭になります。歯並びが悪いと、歯の隙間から音が漏れてしまったり、サ行やタ行の発音のときに舌が前に出てしまい、明瞭な発音ができなくなったり、といったことが起こります。

(3) かむ力が弱くなる

歯並びが悪くかみ合わせが悪いと、食品をよく噛んで咀嚼することができません。上下の歯がうまくかみ合って、当たる部分が多ければしっかりと咀嚼(そしゃく)ができますが、よくかめないとますますかまなくなり、顎の筋肉が発達しなくなり、かむ力も弱くなるという悪循環も起こります。また、顎が発育しないことで歯の生えるスペースも広がらず、ますます歯並びにとっては悪い環境となってしまいます。

(4) 胃や腸に負担がかかる

食べ物は口の中で歯によってすり潰され、かむ間に唾液によって溶かされて、胃へと送られます。でもこの口の中での最初の消化が十分にされないまま、胃へと送られると、それだけ消化の負担にもなるし、栄養を十分に吸収できません。これでは歯や顎だけでなく、全身の成長にも影響しかねません。

(5) 姿勢や骨格に問題が起こる

かむときに上下の歯がうまくかみ合わないことで、どこか一カ所だけで食べ物をすり潰したり、また左右の顎の関節にかかる力が違ったりすることが、体のゆがみを起こさせることにつながります。体のほんの一部分で大げさな、と思われるかもしれませんが、頭は首で支えられ、その首は頸椎・背骨につながり、骨盤にまでつながっています。1日に何百回とかむ動きが姿勢や骨格に影響を与えていくのです。

(6) コンプレックスにつながる

こうした体への影響とともに、心への影響もあります。「人前で大きな口を開けて笑えない」「口に手を当てる癖がついてしまった」といった、コンプレックスのもとになってしまうこともあります。また、かみ合わせが原因で、口がうまく閉じない人もいます。こうしたメンタル面の成長にも、歯並びは大きく影響します。