あわただしい子育て中こそ、ママの健康に気を付けたいですね。前回、依存症の体験談や回復施設の取り組みを紹介しました。今回は国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部の松本俊彦部長に、専門医の立場から依存症の現状や対応、子どもの依存についても聞きました。

家庭でしんどいことがあったとき、薬に頼ってしまう

―― 依存症の現状を教えてください。

<b>松本俊彦</b> 1967年生まれ。佐賀医大、横浜市立大病院などを経て、現職。自殺防止やいのちの電話、依存症の当事者によるリハビリ施設の運営などにもかかわる。
松本俊彦 1967年生まれ。佐賀医大、横浜市立大病院などを経て、現職。自殺防止やいのちの電話、依存症の当事者によるリハビリ施設の運営などにもかかわる。

松本俊彦部長(以下、敬称略) 信頼できる調査によるとアルコール依存症は全国に110万人と言われます。ギャンブル依存は人口の10%と推計され、これは欧米の10倍です。違法な薬物を一度でも使ったことのある人は、2パーセントほどと推計。インターネットのゲーム依存は病院での調査が現在進められているようですが、10代に多いそうです。疾患としての実態は明らかでありませんが、買い物依存もあります。いずれも、やめられなくなり、生活が破たんして周りを巻き込むような場合は治療が必要です。

 近年、女性に多いのは精神科の治療薬への依存です。気軽に行ける心療内科で睡眠薬や抗不安薬を処方してもらう。よき妻、よき母でなければならないと思っているので、本当の悩みは話せず、眠れないとかドキドキするとか言います。だんだん多めに飲むようになり、複数のクリニックに行く人も。最終的には依存症になり、家庭でしんどいことがあったとき過剰に飲んでしまう。やめにくい抗不安薬もあり、いつも酔っているような感じになり、感情の起伏が激しく、衝動的になって自殺未遂の危険もあります。

―― どんな人が、依存症になりやすいのでしょうか。

松本 アルコールを飲んでも依存症にならない人が多いですし、アルコールに接する機会が多い飲食店の店員がなるわけでもありません。こんな実験があります。数十匹のマウスを二つのグループに分け、一つのグループは檻に入れてえさの時間も個別に管理する。もう一方のグループは、公園のような快適な場所で、じゃれあうのも食べるのも自由に過ごす。このマウスに、依存性の物質であるモルヒネ入りの砂糖水と普通の水を与えると、檻に入っているマウスのほうが、はるかに多くのモルヒネ水を飲みました。つまり、置かれている環境が孤独な檻にいるような体験をしている人が、依存症になりやすいと言えます。

 人は飽きっぽいので、本来であればどんな快感にもすぐに飽きてしまうものなのです。でも、あるアクションをとると、それまで続いていた苦痛が軽くなるという体験には飽きることがありません。依存症になりやすい人は、もともと生きづらさ、しんどさを抱えています。過干渉とかネグレクトとか、親との関係に問題があり過酷な成育歴がある。こうした人は自尊心が低く、配偶者を選ぶ段階から問題を起こしがちです。例えば、ステータスの高い男性と結婚することで、何とか自尊心を保とうとしますが、かえって素の自分が出せず、ぐちを言えなくなってしまうことがあります。不器用なのでたった1人にしか頼れず、常に見捨てられるのではないかという恐怖があり、先回りしてなんでもやってあげるのでオーバーワークになる。そうした気持ちを紛らわすのに、アルコールや市販薬、精神科の治療薬といった物質や、買い物などの行動に依存するようになります。

よき母、よき妻でいようと無理をして、睡眠薬や抗不安薬の量が増えてしまうことも
よき母、よき妻でいようと無理をして、睡眠薬や抗不安薬の量が増えてしまうことも