ノドグロを目にした息子が、なななんと!
高いだけのことはあった。パリッと焼けた皮目の間で、脂が踊っている。間違いなくこれは美味い。口に含む。案の定! ああ、一昔前ならこのクオリティをあと1000円安く味わえていたのに!
これだけのノドグロとなれば、当然、ヨメもご満悦で──と、その時だった。
虎が、箸を使っていた。
年少のちびっこさんに比べればずいぶんと大きくなった虎だが、まだまだ年少さんと変わらないところもあって、その一つが箸遣いだった。クラスの女の子の中には器用に使いこなす子もいるというのに、虎の場合はまったくダメ。ちなみに、その女の子のお父さんは、わたしのアラフィフなパパ友の一人で、「いやあ、ウチの娘って食い意地が張っててさあ、好きなものを食べたい一心で箸遣いが上手くなっちゃったんだよね」という話は聞いていた。
どうやら、虎にとってはそれがノドグロだったらしい。
父と母がこれだけ好きなのだから、当然、虎もこれまで何回かはノドグロを口にする機会はあった。ただ、これだけ見事なものが我が家の食卓に並ぶのは久しぶりで、かつ、この日は両親ともに自分が食べることに集中してしまい、数分間とはいえ、虎は取り分けられた皿とともに放ったらかしの状態になっていた。
召し上がったことのある方ならおわかりだろうが、ノドグロの場合、身は大変に柔らかい。フォークで刺そうとすると、ポロポロと崩れてしまう。何回か挑戦して失敗した虎は、ノドグロ食べたさのあまり、今まで一度も成功したことのなかった箸遣いに挑戦し、見事成功したのである。
ありがとう、ノドグロ!
翌日、虎は白いごはんをお箸で食べることにも成功した。というか、お箸を使って食べることに明らかな喜びを覚えるようになった。箸を使えば母親が喜ぶし「このままいけばすぐにパパより上手くなっちゃうね」とホメてももらえるからだ。
すべては、ノドグロのおかげである。わたしが広島で買ってきた1枚2700円の、しかし最終的にわたしがほとんど食べることのできなかった、ノドグロのおかげである。
保険、かけておいてよかったです。