5月に運動会が行われる小学校が増え、近隣の小学校からも元気な掛け声が聞こえてきています。

 ところで今から3年前、「組体操」問題がツイッター上をにぎわせ始め、2015年には社会問題にも発展したことを、覚えている方も多いかと思います。その後、教育関係者の取り組みもあり、こうした大がかりな組体操にはブレーキがかかったといいますが、かといってすべての組体操が禁止になったわけではありません。

 名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授、内田良さんは、この「組体操」問題など、教育現場で起きる様々なリスクを研究しています。著書『教育という病』では「組体操」はもちろん、「柔道事故」「部活事故」「部活顧問の過重負担」など教育の現場で起きる「リスク」を訴えています。

 この連載では内田さんに、日経DUAL読者が向き合うべき、小学校で子どもたちが負うリスクを中心にお話しいただきました。また学校の「ブラック企業化」とそれによる「リスク」についても教えていただきます。

 名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授 内田良です。学校リスク(スポーツ事故、組体操事故、転落事故、「体罰」、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究を行っています。

 今回は、この数年話題になった「組体操」を中心に、「運動会」のリスクをお伝えしたいと思います。

組体操は「禁止」になっていなかった

 皆さんは、小学生の組体操を見たことがありますか?

 2015年9月に「10段の組体操 崩壊の瞬間と衝撃 ――2人の生徒 教師に抱えられて退場 ▽組体操リスク」という記事をYahoo!ニュース個人「リスク・リポート」で書きました。そのなかで立体型の10段ピラミッドを目指して、生身の生徒が下から徐々に上に積み重なっていくと、10段を組み立てるには、少なくとも百数十名の生徒が必要で、高さはおよそ7メートルにもなること、土台の最大負荷量は1人当たり200kg前後にもなることを書きました。

 当時はまだ、小学生が10段もの高さのあるピラミッドという立体型の組体操を運動会で披露していました。その映像はYouTubeなどで公開されていますが、実際に目にしたことがある親御さんも多いのではないでしょうか?

 こうした巨大なピラミッドをはじめ、組体操には大きな事故リスクがあります。2014年5月ごろからツイッター上で組体操の危険性を訴える声が高まり、2015年には組体操問題は大きな社会問題になりました。そのおかげもあって、2016年3月にはスポーツ庁も動きだし、まず、2011~2014年度の間、年間8000件を上回る事故が起きていたこと(1969年度以降の組体操による事故での死亡事例は9件、障害が残った事例は92件)。そして安全が確保できない場合は中止するなど適切な対策を取ることなどを、全国の都道府県教育委員会などに通知しました(出典:スポーツ庁 政策課 学校体育室「組体操等による事故の防止について」)。

 では、組体操は「禁止」になったかというと、ブレーキはかかりましたが、続行する学校は多く、全国の都道府県教育委員会でも「全面禁止」「廃止」とはしていません。

 2017年2月24日に調布市教育委員会指導室が発表した「平成29(2017)年度以降における『組み体操』等への対応方針について」を参照してみましょう。

調布市教育委員会の方針(組み体操実施について)

(1)「ピラミッド」、「タワー」の技は、禁止とする。
(2)技の上部に位置する児童が、およそ2m以上の高さになるような技(肩車、サボテン等)について禁止とする。

他地域の動向

【大阪市】市立小中高校の運動会や体育祭で実施している組み体操の「ピラミッド」と「タワー」を平成28(2016)年度から禁止
【千葉県流山市、野田市、柏市】全ての市立小中学校において、平成28(2016)年度から運動会の組み体操を全面廃止
【東京都北区】組み体操のうち「タワー」「ピラミッド」等の技を今後は区立小中学校で行わないことを決定
【東京都三鷹市】「ピラミッド」と「タワー」については、平成28年度から原則として禁止

 一方、東京都教育委員会は、2016年12月に下記のように通知しています。

 ・組み体操を実施する場合は、いわゆる「ピラミッド」と「タワー」については、原則として禁止することとする。
 ・ただし教育的意義、学校経営上の位置付けを確認するとともに、教員の指導経験、指導技術、指導体制等を点検、確認したうえで、学校全体で実施したいとする意志が強い場合は、児童・生徒の体力の実態等を踏まえ、安全を最優先した指導計画を作成するとともに、東京都教育委員会に提出し協議を行う。
 ・また、事前に、生徒や保護者、地域に対し、組み体操を実施する目的、指導内容・方法、安全対策等について説明し、理解を得る。

 つまり組体操の中の「ピラミッド」「タワー」などの技は禁止していますが、組体操そのものは禁止していません。