名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授 内田良です。学校リスク(スポーツ事故、組体操事故、転落事故、「体罰」、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究を行っています。
今回は、この数年話題になった「組体操」を中心に、「運動会」のリスクをお伝えしたいと思います。
組体操は「禁止」になっていなかった
皆さんは、小学生の組体操を見たことがありますか?
2015年9月に「10段の組体操 崩壊の瞬間と衝撃 ――2人の生徒 教師に抱えられて退場 ▽組体操リスク」という記事をYahoo!ニュース個人「リスク・リポート」で書きました。そのなかで立体型の10段ピラミッドを目指して、生身の生徒が下から徐々に上に積み重なっていくと、10段を組み立てるには、少なくとも百数十名の生徒が必要で、高さはおよそ7メートルにもなること、土台の最大負荷量は1人当たり200kg前後にもなることを書きました。
当時はまだ、小学生が10段もの高さのあるピラミッドという立体型の組体操を運動会で披露していました。その映像はYouTubeなどで公開されていますが、実際に目にしたことがある親御さんも多いのではないでしょうか?
こうした巨大なピラミッドをはじめ、組体操には大きな事故リスクがあります。2014年5月ごろからツイッター上で組体操の危険性を訴える声が高まり、2015年には組体操問題は大きな社会問題になりました。そのおかげもあって、2016年3月にはスポーツ庁も動きだし、まず、2011~2014年度の間、年間8000件を上回る事故が起きていたこと(1969年度以降の組体操による事故での死亡事例は9件、障害が残った事例は92件)。そして安全が確保できない場合は中止するなど適切な対策を取ることなどを、全国の都道府県教育委員会などに通知しました(出典:スポーツ庁 政策課 学校体育室「組体操等による事故の防止について」)。
では、組体操は「禁止」になったかというと、ブレーキはかかりましたが、続行する学校は多く、全国の都道府県教育委員会でも「全面禁止」「廃止」とはしていません。
2017年2月24日に調布市教育委員会指導室が発表した「平成29(2017)年度以降における『組み体操』等への対応方針について」を参照してみましょう。
一方、東京都教育委員会は、2016年12月に下記のように通知しています。
つまり組体操の中の「ピラミッド」「タワー」などの技は禁止していますが、組体操そのものは禁止していません。