結局銀行も国債を買って運用しているので、銀行預金は国債に投資をしていることとあまり変わらないと先ほど説明しました。厳密には預金は銀行への貸付金ですから、銀行が破綻すればお金は戻ってきません。ただし1000万円とその利息は国の保証があるため、実質的に国が潰れない限り1000万円までは安全で、国債と性質は似ています。従って預貯金は運用の性質からも制度面からも日本債券(国債)と同じアセットクラスに属しているといえます。
学資保険や終身保険など、貯蓄型の保険も保険会社を通じて大部分が国債で運用されていますが、その他の資産でも運用されています。しかし、積み立て型の保険は預貯金ほど強く保護されていません(契約者保護機構というものはあります)。保険会社の破綻時には大幅に受取額が減ってしまいます。従って分類でいえば、日本債券の中でも社債に近い性質があるといえます。
勤務先の退職金や企業年金(確定拠出年金を除く)も企業が破綻や経営が悪化すれば減額される可能性が高いため、勤務先の社債を保有している状況に近いといえます。
ドル建ての終身保険は名前の通りドルで運用されますので、外国債券に分類されます。外貨預金も含めて、外債と同じカテゴリです。
自宅は言うまでもなく国内不動産に分類されます。住宅相談にのっていると、数年前に購入した自宅が1000万円以上も値上がりしたので売却してさらに便利な場所に住み替えたい、といった実質的に不動産投資で利益を得ているのと似た状況も度々目にします。
株の項目で説明したように、持株会やストックオプションは株に分類されます。
給料も「アセットクラス」で分類可能?
自分が勤める勤務先についても、会社の利益は何によって大きく変動するのか?と考えてみてください。資源価格なのか、為替(仕入れ・販売とも)なのか、取引先の国なのか……自分の給料や雇用も「アセットクラス的」に把握することができます。こうして収入と資産運用とのバランスを図ることも資産運用の上級者なら考えたほうがいいかもしれません。
……と、このように考えていくと、資産はもちろん収入までアセットクラスによる分類を広げることができます。自分が何をしているか把握するために、まずはアセットクラスの把握が重要です、と説明してきた理由を多少は理解してもらえたのではないでしょうか。
3回にわたって資産運用とアセットクラス、そしてその特徴を説明しました。利益を得るテクニックの話はあえていったん横に置いて、それぞれのアセットクラスの理解を重視したつもりです。「基礎の基礎」を学んでしまえば、安易に危険な投資に手を出さずに済むからです。
FPの仕事をしていると、資産運用に関わる詐欺事件は頻繁に目にします。実際に相談を受けることもあれば、報道で被害者が数千人、被害総額数十億円、といった事件を目にすることも珍しくありません。そんなニュースを見るたびに、慌てて投資をする前に相談に来てくれればいいのに、と思ってしまいます。
摘発される投資詐欺のほとんどが知識さえあれば100%引っかからないもの、プロが見れば10秒でインチキだと分かる失笑レベルのものばかりです。今後は老後の不安をあおる投資詐欺が増えると思いますが、まずはもうけを考える前に正しい知識を得て、損をしないこと、だまされないことを考えてほしいと思います。今回の記事が多少なりともお役に立てば幸いです。
(イメージカット/鈴木愛子)