国を挙げての取り組みが注目される「働き方改革」。昨年12月働き方改革実現会議によって公表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」に続き、2017年3月28日「働き方改革実行計画」でも真っ先に掲げられたのが、「同一労働同一賃金」の問題です。有期の契約社員やパートタイマーなどの非正規社員と正規社員の待遇格差の解消を目指すとのことで、これに伴い、長時間労働の是正や罰則付き時間外労働の上限規制の導入などの検討が急がれています。

エコノミストで昭和女子大グローバルビジネス学部・学部長・特命教授を務める八代尚宏氏はこれまでの議論を受け、「なぜ、働き方を変えなければいけないのかという、政府の説明や根本問題の言及が不十分」だと指摘します。「しかも、ほとんどの議論が核心的な根源問題を置き去りにしたまま行われているため、誤解も多い。昨年末のガイドラインに至っては肝心なポイントがすっかり抜け落ち、骨抜きにされたガイドラインになってしまっている」と八代氏は斬りこみます。

これからの働き方改革とは本来、どうあるべきなのか。政府の取り組みに先駆け、昭和女子大学では八代氏を座長に2016年9月~2017年2月の半年間にわたり、「労働法制の変化と『働き方』研究会」が開催されました。参加者の多くが、企業の人事担当者、女性活躍推進担当者、ダイバーシティー担当者だったこともあり、各回とも活発な議論が交わされ、盛況のうちに終わりました。この研究会の模様をダイジェストで不定期発信していきます。

第一回「働き方」研究会では「現行の日本的雇用慣行の抱える問題点と改革の方向」をテーマに、少子高齢化社会、グローバル化を前提とした制度改革の必要性について八代尚宏先生の基調講義が行われました。(以下、すべて八代氏 談)

なぜ、働き方を変えなければいけないのか? 今、抱える問題点とは?

 なぜ働き方を変えなければならないのか――。

 この問いに一言で答えるなら、経済環境が変わってきたから、というほかありません。現状、日本の労働慣行はいまだに過去の働き方をモデルにしています。そのモデルとは、高度成長時代に労使間の合意によって自然発生した雇用慣行です。主に男性社員が長期の雇用と家庭を養う生活保障をされる代わりに、どのような仕事でも、つまり、配属先や勤務先も雇用者に命じられるまま無限定で働くという「包括的な契約」が一般的です。この働き方は企業の組織が右肩上がりで拡大した過去の高度経済成長期には確かによく機能しました。

 しかし、今日の経済成長の長期的な減速と、人口減少、少子高齢化の時代においてはもはや多くの働き手にとってリスクとなる働き方になりつつあります。にもかかわらず、過去の慣行を維持したまま改革を進めようとしていることにまず、大きな問題があると言わざるを得ない。

 環境が変わった以上、社会制度は変えられるべきです。とはいえ、その前に、制度を変える要因となる「社会変化とは何か」を把握する必要があるでしょう。ここが説明不足のまま、多くの議論がなされているため、誤解も多くなってしまう。「非正規社員が増えたことで賃金格差が拡大した。だから、非正規社員を規制で締め出せばいい」とか、「働き方改革は非正規社員を増やし、賃金カットすることで企業の利益を得ようとするための政府の方便」などという批判は誤解の最たるものです。

 今、議論されている「働き方改革」はそんなしみったれた考え方に基づくものではありません。今後の社会変化に対応するための成長戦略であり、それに基づいた構造改革であるべきなのです。成長戦略を語るうえで知っておきたいのが、「資本」「労働」「配分効率」という3つの要素。そして、これからの社会の変化を把握するために覚えておいてほしいのが、次の3つのキーワードです。

【これからの社会の変化を把握するために重要になる3つのキーワード】
●人口減少社会 
●女性の就業率の増加と、共働き世帯の標準化 
●高齢者の高齢化

昭和女子大学で行われた「労働法制の変化と『働き方』研究会」
昭和女子大学で行われた「労働法制の変化と『働き方』研究会」