「働きたい――」その願いが断たれかけたとき、当たり前のように毎朝出勤していく夫がとても羨ましく、そして妬ましくなってしまったのだと思います。毎日の出勤、通勤時間のSNSチェックや一人で過ごすランチタイム、以前は当たり前のようにあった時間が、一人だけうんと遠のいてしまったことにやりきれない思いに。「あなたも仕事だけど、私の仕事も仕事なの。どうして私だけが我慢をしなきゃいけないの」そう言って夫を困らせたこともありました。

 でも、そう思うこと自体がまるで娘をうとましく思っているように思えてしまい、望んで産んだ子なのに‥と涙し、またまた夫を困らせたものです。

 待機児童によってキャリアを断たれる女性の心境は筆舌に尽くしがたく、自分に落ち度がないだけにそのストレスは許容しがたいものがあります。DUALで「待機児童と虐待」というテーマの興味深い記事「保育所不足、女性有業率ボトムが家庭に与える影響」を読みましたが、待機児童問題は母と子の関係だけでなく、結果として少なからず夫婦関係に影響するケースもあるのではないでしょうか。

 待機児童が確定してからしばらくの間、私は情緒不安定だったように思います。

私が講演中、控え室でパパが娘に食事を与えます。ストローでも上手に飲めるようになりました!
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待機児童問題がもたらす「2人目の壁」

 とはいえ、法人の代表を務めている立場として、会社を潰すわけにはいきません。まず、シッター派遣会社のパンフレットを集め、マッチングサイトなどもチェックし、費用面と条件をチェックすることに明け暮れました。

 語学教育や児童心理学など、専門スキルのあるシッターの時給は2000〜3000円と高額です。保育士の資格をもつシッターも、安くとも1300円はします。こればかりは安かろう良かろうというものでもありません。仮に1300円のシッターに1日8時間預けるとすると、1日約1万円かかります。

 週5回預けたら1週間で5万円、1カ月で約20万円です。家のローンや食費などの生活費とは別に、子どもの保育費だけに月20万円を払える世帯がどれだけあるでしょうか。ですが、実際に私たち夫婦の周りにはキャリアが途切れるよりはマシと、月10万~20万円をシッターにかける夫婦も少なからずいます。そうした夫婦からよく聞くのは、1人目の保育園入園の目途が付くまで「2人目は無理」という言葉。その言葉を聞いて「その通りだなぁ」と思うとともに、年齢について考えてしまいます。

 今現在、第一子の出産平均年齢は30.6歳。キャリアウーマンはさらに遅い印象があり、実際に東京都区部の初産婦は平均32.2歳(※)。今でこそ35歳からの出産が高齢出産とされていますが、1993年までは高齢出産の定義が「30歳以上」だったわけです。

 私自身も33歳で第一子を産んだ身ですが、妊婦健診で「母親の年齢」と「障がい発症率」の関係が記載された資料を見て青ざめたのは記憶に新しいところ。30歳を過ぎたら1日でも早い妊娠に越したことはないという周知の事実がある中で、保育事情で第一子が保育園に入園するまで待ってから次の子…仕事復帰プランだけでなく、計画していた2才差計画も崩れ落ちてしまいました(2才差で産んでも高齢出産ですが)。

 不安なことに、保活に振り回されている間に妊娠率は低下してしまいます。待機児童によって希望する子どもの数がかなわないなんて、本気で社会は少子化対策を実施する気があるのか心から疑問に思いました