生活保護家庭の子どもにも道が広く開かれるべき

島田 僕もまだ社会に出ていないので何も理解できていないと思うのですが、何となく、社会全体の雰囲気として、「自分はこれだけ苦しかったから、おまえも同等に苦しくあるべきだ」という風潮があるのが気になっています。それを言うなら、僕の立場からは「みんな生活保護家庭から東大に行ってみろよ」という主張になるかもしれませんが、僕はそんなことを言いたいとは思わない。お互いに苦しいだけだし、得にはならない。

 「自分が苦しかったからこそ次の世代はより良くする」という方向で社会を回していけたら、未来に希望を持てるんじゃないかと思います。

駒崎 おっしゃる通りで、今はシバキ主義がまん延していますよね。僕もそれは変えていきたいです。「生活保護家庭の子どもは大学に行っちゃダメ」という制度はやはり変えたほうがいいと思いますか?

島田 そのほうが今よりやりやすくなるのは確かですが、そもそも、大学を卒業しないと社会的格差が出てしまうという問題が根本にあるとも思います。大学に進学しなくても最低限の文化的生活が保障されれば、生活保護家庭出身の子どもたちの道はもっと広く開かれると思います。

駒崎 確かに、ドイツのように高校を出て働き始めてもキャリアに何の格差も生まれなければ問題ありませんよね。大学を卒業するか否かで社会のスタートラインがまるで違ってしまう点が、貧困を再生産しているという指摘はありますね。いずれにせよチャンスは開かれるべきだということですね。

島田 僕は生活保護家庭で育ったガキとして東大に進学しましたが、そのことに臆せずに誇りにして生きていこうと思っています。僕が生活保護制度を否定してしまったら、誰も肯定しないと思うので。生活保護家庭であることを恥じずに、「だから何?」と堂々と胸を張って生きていけるよう、行けるところまで努力していきたいと思います。朽ちるなら朽ちるで、もう失うものはありません。日本社会の地獄は既に見てきたと思っているので。その経験も経て今ここにいられることは、天から授かった使命なのかもしれません。

駒崎 自身の努力を誇っていいと思います。おっしゃる通り、生活保護制度は社会全体の流れとしては劣勢にあり、実際に問題のある家庭も少なくないと思います。でも、生活保護があったからこそ、ここまでたどり着けたという人もいる。

 今その制度の庇護の下にある子どもたちにとって、勇気が出る体験談を語れる人はほとんどいないし、いてもなかなか出づらい中、島田君が語ってくれることは非常に価値が高いことだと思います。島田君になれたかもしれない子どもたち、また、なれるかもしれない子どもたちのために、僕も力の限り頑張っていきたいと思います。

(文/宮本恵理子 撮影/鈴木愛子)