奨学金が受け取れなくなる、一時金が必要になることへの対策

島田 すぐにでも始めたかったのですが、1年生はカリキュラムが忙しく、僕のゴールは「3年次に理転すること」だったので、2年生の夏までに理系の教養科目単位の大半を取得せねばならず、まずは学業を優先しました。

駒崎 そういった状況ではサークル活動を楽しむ余裕はなさそうですね。2年生になってからはどうですか?

島田 少し余裕が出ましたのでバイトを始めました。勉強とバイトに明け暮れ、それ以外の記憶はありません。バイトは受験用の教材開発をしています。家庭教師よりも好きな時間に好きなだけ稼げるので、空いた時間を使っていくらでも働けるのがよかったので。

駒崎 勉強も相変わらずハードなはずで、体力的にはつらくなかったですか?

島田 体力的には大丈夫ですが、学生寮から往復90分近くかけて通う生活は少しきつかったですね。でも、高校までの生活に比べればずっとましです。この春から、大学所在地の文京区の寮に移ることができるので、だいぶ楽になると思います。

駒崎 そしてこの4月に3年生になるわけですが、目標だった理転のほうは…?

島田 はい。2年の夏時点で単位取得が認められて、正式に決定しました。しかし、奨学金のスポンサー企業もまさか「文系で入って理転する」なんて想定していなかったでしょうから、僕のやったことが機嫌を損ねてしまわないかということがちょっと心配です。

駒崎 万が一、奨学金がストップしてしまったときの対策は取ってあるんですか?

島田 準備としては、バイト代をためているほか、念のため貸与型奨学金を借りるだけ借りて、すべてためています。借金は絶対に嫌ですが、手をつけなければいつでも返せるので。事故に遭ったりするリスクに備えるためでもありますし、もしかしたら将来、何かの制度変更が起きて、「研究成績優秀なら貸与型奨学金の返済免除」といったことになるかもしれないという淡い期待も抱えつつ。

駒崎 できることはしておいて、いろんな可能性を広げているんですね。なるほど、ここまでの話で島田君がいかに自分で模索して苦労しながら、目標を達成するまでの道を歩んできたかが分かりました。しかしながら、改めて思うのは、島田君の事例は非常にレアケースだということですね。中3のときに月謝滞納にも寛容な個人塾に出会ったり、奨学金を獲得する方法を見つけたりと、いくつかの偶然が重ならなければ島田君はここにいなくて、埋もれていたかもしれませんね

島田 全くもってその通りで、僕は非常に運がいいと思っています。中3の春に学習塾の無料体験に友達に連れていかれたのがすべての始まりですし、奨学金もたまたま県内ではうちの高校だけが対象でしたから。

――「下」編へ続きます。

(文/宮本恵理子 撮影/鈴木愛子)