夫のがん。弱っている夫を見て、家族が変わっていって。
―― これまでの3冊で、家族の関係性もその時々で変わっていく様子が見られます。『かなわない』では、夫であるECDさんとの関係も白紙にしたい、自由になりたい、という強い思い。そして、『家族最後の日』では、夫ががんを宣告されてからの日常が描かれています。今も仕事に看病にと大変な毎日だと思いますが、それでも家族と過ごす喜びのようなものも伝わってきます。その変化は、どのようなものだったんですか?
植本 やっぱり一番大きいのは旦那さんが弱っている、ということですね。今も入退院を繰り返している状態なんです。元気でいてくれたらそれなりに、今まで通り腹を立てたりもしてたと思うんですけど、弱ってますからね……。
子どもたちの負担にもなってほしくないし、旦那さんにも負担をかけたくない、という気持ちはあります。
―― 子どものメンタル面のケアも親としては心を砕く部分ですよね。お父さんのことをお子さんたちにはどのように伝えているのでしょうか?
植本 入退院をしている状態なので、病気のことも本当のことを伝えていますが、「もうちょっとで退院できるみたいだよ」、とか、あまり心配をかけないようには気を付けてますね。
上の子は割とあっけらかんとしています。気にならないわけはないんですけど……。下の子は上の子よりも繊細な性格。ただ下の子は今年の春から小1で、環境の変化が大き過ぎるから自分のことでいっぱいだろうし、なるべく考えなくていいようにしてあげたい、とは思っています。
自分が壊れてしまうほど頑張るのは危険過ぎる
―― 植本さんご自身、看病や家族を養わなくてはいけないプレッシャーがあるのでは?
植本 まあ、そこは、何とかなるだろうって。夫にも調子がいいときは自分で洗濯とかしてもらって、あまりお見舞いも行ってなかったり。私も考え過ぎないようにしています。
仕事も、家族のために増やそうというよりむしろ減らしているかもしれない(笑)。大変なんですよね、一人で日常全部を回すって。だから無理してもっと頑張ろうとかじゃなくて、なるべくこれだけの日数働けば、これだけの生活ができるから、そのために仕事のやり方を工夫しようとか、そういうふうに考えています。
そうじゃないと自分が壊れてしまうというか、危ないな、と思うんですよね。
―― お母さんが倒れたら、それこそ大変ですもんね。
植本 二人の娘たちも小学生になって。だから何とか回ってると思います。
小さいときにこういう状況になってたら、全く違ったことになっていたと思います。がんが発覚したのがあと2年早かったら、家族は崩壊していたと思う……。
今だからこそ、娘たちも協力してくれる。やっぱり一人じゃできないじゃないですか、生活を回すのって。ギリギリのタイミングだったと思っています。
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母親になってからの怒とうの日常や心の動きを、見逃さず書き続けてきた植本一子さん。今もその家族の日常は続いています。「母であり、妻であり、また、写真家、文筆家として活動する自分自身を、一番の軸にして日々を過ごすようにしている」と植本さん。次回では、植本さんが考える「一人の人間であり、母であること」についてさらにお話を聞いていきます。
(取材・文/玉居子泰子 写真/品田裕美 構成/日経DUAL 加藤京子)