「毒親」という言葉をご存じでしょうか。様々な定義がありますが、虐待や暴言、ネグレクト、過干渉などで、子どもを不幸にするような行動をする親のことを指します。ここ数年、書籍やメディアなどでもよく目にするようになったこの言葉。ただ、言葉は違っても「毒親」自体は、ずっと以前から存在したと言われています。

 子育て真っ最中のDUAL読者のなかには、「毒親」に育てられた苦しみを抱えていたり、自らの子育てにおいて「私って毒親?」と心配になっていたりする人も、多くいると思います。DUAL5月号では、そんな毒親について特集として取り上げ、「毒親」になってしまう理由や、その苦しみからの脱却方法などについて、考えていきます。

 特集第2回は、毒親についての基礎知識を紹介します。話を聞いたのは、心理学を専門とする加藤諦三教授。現在、早稲田大学名誉教授/ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員である加藤先生は、心理学的側面から、より良い親子関係を築くヒントを説いた著作を、多数、発表しています。毒親とは何なのか。なぜ、毒親になってしまうのか。その根本原理から、ひもといていきます。

【もしかして、わたし毒親予備軍? 特集】
第1回 「親が毒親だった」「自分が毒親かも」いずれも7割
第2回 心の葛藤を「子どもとの関係」で解決しようとする毒親 ←今回はココ
第3回 あなたも例外ではない!毒親予備軍からの脱出法
第4回 共働きっ子から親への反発 負い目に苦しめられる
第5回 親から子、孫へ…毒親の負の連鎖を断ち切る方法

毒親の定義と根本原理

 毒親について知るべく、今回訪ねた加藤諦三教授は、『子供にしがみつく心理』(毎日新聞出版)、『子どもと心の通う親 なぜかスレ違う親』(青春出版社)など、親子関係に関する著作を多数発表している心理学の専門家。また、ラジオの人生相談を約50年にもわたって務めており、数多くの人の親子関係・家族の悩みに耳を傾け、アドバイスをおくってきた。

<span style="font-weight: bold;">加藤諦三氏</span> 1938年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。早稲田大学名誉教授。現在、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員。2016年11月、瑞宝中綬章 受章。ニッポン放送系列にて「テレフォン人生相談」パーソナリティーを半世紀近く務めている。著書に『子どもにしがみつく心理 大人になれない親たち』(毎日新聞出版)、『なぜ、あの人は自分のことしか考えられないのか 「ナルシスト」という病』(三笠書房)など多数
加藤諦三氏 1938年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。早稲田大学名誉教授。現在、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員。2016年11月、瑞宝中綬章 受章。ニッポン放送系列にて「テレフォン人生相談」パーソナリティーを半世紀近く務めている。著書に『子どもにしがみつく心理 大人になれない親たち』(毎日新聞出版)、『なぜ、あの人は自分のことしか考えられないのか 「ナルシスト」という病』(三笠書房)など多数

 そんな加藤先生は、毒親をこう定義する。

 「毒親とは、自分の心の葛藤を、子どもを巻き込んで解決しようとする人のことです」

 加藤先生によれば、子どもに対して毒親になる人は、必ず、自分自身の心の中に、何らかの葛藤や問題を抱えているのだという。

 「例えば、子どもが心配でしょうがない、過干渉をやめられないという悩みを訴える親。その人は、本当の悩みから逃避するために、別の悩みを作っているだけなんです。本当は夫婦関係がうまくいっていないなど、別の問題を抱えているのに、そこから目を背けるために、子どもに意識を集中させている」

 加藤先生が見てきた他の例では、娘の容姿を「学年一のブスだ」と言う母親がいた。娘は精神科に通うほど深い傷を負ったが、母は、言ったこと自体を覚えていない。この場合の母親は、自分の容姿に劣等感があり、その感情から自分を守るために、娘にひどい発言をするのだという。「本当に相手を見て“ブス”と言ったのではないから、自分の発言は覚えていない」

<毒親になる背景>

親自身の心の葛藤や欲求不満

・夫婦関係がうまくいっていない
・自分が望む社会的成功を得られていない
・自分の老後が不安
・学歴、容姿などにコンプレックスがあるが、そのことを自覚していない、あるいは認めていない など・・・

  解決する手段として「子どもを巻き込む」

子どもとの関係に表れる

過干渉、支配、ネグレクト、暴言、暴力 など・・・

 上記のような構造があるため、一見、周囲から“子煩悩”と評されるような振る舞いも、親が別の問題から逃げるために、子どもに走っているのであれば、それは“現実逃避”であり“自己防衛”。あるいは、束縛欲が激しい親というのは、自分の心の葛藤の解消として「子どもから必要とされることを必要としている」ため、子どもの成長を拒否している状態だ。

 また、ネグレクトも、一種のいじめであるため、いじめる快感によって、親が自分自身の欲求不満を晴らしているのだという。このように「毒親は、正確にいえば、“毒親依存症”。毒親であることをやめられない状態を指す」と加藤先生は指摘する。

<次ページからの内容>
・毒親になりやすいのは、現実にコミットできない人
・子どもに劣等感を持たせる行動は何よりも避けるべき
・適正な親子関係とは何か
・毒親が連発する言葉
・毒親にならないために、加藤先生のアドバイス