「毒親」という言葉をご存じでしょうか。様々な定義がありますが、虐待や暴言、ネグレクト、過干渉などで、子どもを不幸にするような行動をする親のことを指します。毒親の基礎知識や毒親予備軍からの脱出方法を紹介してきた今回の特集。

 最終回に話を聞く専門家は、母娘・家族問題研究家の麻生マリ子さんと、夫婦・家族問題評論家の池内ひろ美さん。“母の呪い”をテーマに長年相談活動を続けているお二人から、毒親の負の連鎖を断ち切る方法について聞いていきます。母である麻生さんと池内さんですが、実はお二人とも、実母との間に“毒親”の体験がありました。誰しもの無意識下に影響を及ぼす”母の呪い”を乗り越えるにはどうしたらいいのか? 自身の実体験も交えながら、アドバイスをもらいます。

【もしかして、わたし毒親予備軍? 特集】

第1回 「親が毒親だった」「自分が毒親かも」いずれも7割
第2回 心の葛藤「子どもとの関係」で解決しようとする毒親
第3回 あなたも例外ではない!毒親予備軍からの脱出法
第4回 共働きっ子から親への反発 負い目に苦しめられる
第5回 親から子、孫へ…毒親の負の連鎖を断ち切る方法 ←今回はココ

あらゆる子どもに“母の呪い”はかかっている

日経DUAL編集部 お二人は何年も前から、“母の呪い”という問題提起をされています。「実の親が呪いを…」と聞くとかなり強烈な印象を受けますが、具体的にはどのような状況を指すのでしょうか。

池内ひろ美さん(以下、敬称略) まず知ってほしいのは、“母の呪い”は全員にかかっているということ。小さな子どもは親が大好きですから、親が普段口にしている言葉や価値観に強く影響を受けます。その影響は親が思っている以上に大きい。つまり、親というのは、毒にもなれば薬にもなる存在なのです。そういう意味ではすべての親が毒親であり、母の呪いにかかるのは特別なことではありません。数年前にテレビ番組で、女性学研究家の田嶋陽子さんが「母が私に子どもを持つことを勧めてくれていたら、私だって産みたかったのに」と仰っていて驚きました。田嶋さんほどの女性でも、70歳を超えてなお、母の呪いが消えていない。

麻生マリ子さん(以下、敬称略) 毒が出やすいのは親子の相性の問題もあって、息子よりも娘、そして、“同性の一人目”である“長女”は最も毒を受けやすいんです。私も長女で、つらかった。

—— 異性の親子関係ではなく、母と娘に問題が起こりやすいのは、なぜですか。

池内 “母の呪い”は同じ女である“娘”にかかりやすいんです。そして娘は、大好きなお母さんからのメッセージとして呪いをそのまま受け取ってしまいます。

麻生 親が子を思う気持ちより、子が親を思う気持ちのほうが何倍も強いですから。

池内 特に、おおよその人格ができる8歳~10歳くらいまでは、子どもにとって親は絶対的な存在です。

—— 息子に呪いがかかるのは、どういう場合ですか?

池内 分かりやすいのは、「お金がすべてだ」と母親が言って育てられたために、お金に執着し、社会的には成功しても、お金しか信用できない男性に育つ例があります。また、「あなたは横暴な父のようにならずに優しい男になってね」、という呪いをかけられ、妻の言いなりになる男性に育つ例もあります。DUAL世代の男性は、高度成長期に長時間労働で働く昭和型父親を内助の功で支える母に育てられた人が多い。「女性が強く、男性が優しくなった」「男子の草食化」ということが昨今よく言われますが、こうした親から子へ刷り込まれた価値観による影響も少なからず関係していると思います。

母娘問題研究家の麻生マリ子さん(写真左)と夫婦・家族問題評論家の池内ひろ美さん(写真右)
母娘問題研究家の麻生マリ子さん(写真左)と夫婦・家族問題評論家の池内ひろ美さん(写真右)

—— 麻生さんは、”母の呪い“を6タイプに分けています。

<「母の呪い」6パターン>

(1)娘と一心同体になる母×分身の娘

 娘の人生を自分の人生の延長線上、あるいはやり直しと思い込み、娘と母の間に健全な境界線が引けない。娘の人生の主役を奪う母。娘の成績や受験、就職や結婚などで、自らが社会的評価を得ようとする。

(2)“完璧でいつも正しい”母×間違った娘

 仕事や家事、容姿など、完璧過ぎる母親、あるいは完璧主義な母親。自分が間違っていても正しいと思い込み、娘に謝ることができない。娘は常に自己を否定され続け、「母より劣った私」という無力感を抱える。

(3)責任や義務を放棄する母×負担を負う娘

 親としてなすべき義務を果たさない。典型例はネグレクトだが、形式上は衣食住など不自由なく与えていても、そこに愛情が通っていなければ精神的ネグレクトと定義する。ただし「行動は過干渉な母だが、精神的にネグレクト状態」というパターンもある。

(4)かわいそうな母×支える娘

 親子の役割逆転。母の愚痴——多くは夫の愚痴を聞かされ、娘が母親の“小さなカウンセラー役”を務める。娘は「母は私が幸せにしなければ」「母は私のせいで不幸なのだ」「母が不幸なのに、私が幸せになるわけにはいかない」と罪悪感を植えつけられる。

(5)援助する母×自立を妨げられる娘

 いわゆる過保護・過干渉。金銭や身の回りの世話という援助を不用意に与え続ける。実質的な支配関係だが、周囲には一見「いいお母さん」に見え、また援助を受け手から断ち切ることは困難なため、根が深い。

(6)嫉妬する母×奪われる娘

 同じ「女性」として娘に嫉妬する母。娘の容姿や初潮、身体的・性的成長や恋愛に対し、ネガティブな反応をする。必要であるにもかかわらずブラジャーを買い与えないなど。

(麻生マリ子さんによる分類)

麻生 実際のところ、この6タイプは、どれか一つだけに当てはまるというよりも、複数併発している場合が多いです。

<次のページからの内容>
・ 毒親との上手な距離の取り方
・ 母の呪いを乗り越えるための意識改革
・ “毒親の負の連鎖”に陥りやすい人の特徴・注意点
・ 毒親体験を乗り越え、自分らしく子育てするために
・ パートナーの母が毒親だったら・・・
・ 毒親の負の連鎖を断ち切るためのアドバイス